カテゴリー別アーカイブ: 報道

「ポスト真実」を産み出したもの

 英オックスフォード辞書が、「2016年の言葉」としてポスト真実という言葉を選出しました。
 オックスフォード辞書によると、この単語は、「客観的事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響する状況を示す形容詞」。とのことです。
 昨年、世界的に大きな反響があった、「イギリスのEU離脱」並びに「アメリカ大統領選挙」において、いずれも人々の感情を刺激した事実と異なる事を声高に繰り返し叫んでいた勢力が勝利をした、という結果を受けての事なのでしょう。
 もちろん、これは英米だけの話ではありません。日本でもこの「ポスト真実」が大手を振ってまかり通っています。
 その象徴的な例は、安倍首相ならびに、その政策に対する報道でしょう。

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「ブラック労働は消費者のせい」論の根本的な誤りについて

 AERAの11月28日号にもう、24時間働かない!年中無休、24時間営業を見直す企業続々という記事が掲載されました。
 要約すれば、「消費者が低価格で良質なサービスを要求する結果、企業は『ブラック労働』をせざるをえない。『ブラック企業』をなくすには、消費者が我慢する必要がある」というものです。
 2週間前に再配達や年中無休、本当に必要ですか? 過剰品質が働く人を追いつめるという、「『ブラック企業』が存在するのは消費者のせい」と主張する記事が掲載されていました。要は、中一週間あけて、同じ趣旨の記事を繰り返し掲載したわけです。
 電通事件以来、「ブラック労働」が話題になっています。それに対し、AERAは「悪いのは消費者の過剰な要求だ」というキャンペーンを行っているわけです。

 これまでも、AERA並びに親会社の朝日新聞も、この「ブラック労働で苦しんでいる人がいる。彼らの苦労の原因は消費者が求める過剰サービスのせいだ」という記事を定期的に発表します。
 今年の5月にはAERAに「代わりがいない」から追いつめられる 中小労働者の嘆きという記事が載りました。また、昨年暮れには朝日新聞に仕事のために生きる? 長時間労働はなくせないのかという記事が載りました。
 いずれも、「ブラック企業」に苦しめられている労働者のルポですが、締めには同じような主張が書かれています。
 5月のAERAは「その全人格労働に追い込むのは、何も会社だけではない。何の疑問も抱かずに24時間営業のコンビニや深夜まで営業するスーパーを利用する私たちも、全人格労働の加担者なのかもしれない。そう自覚することが、自分の労働環境をよりよくする第一歩になる。」でした。
 同様に、昨年の朝日新聞は「今回いただいた、「過剰なサービスを要求している私たちが、長時間労働を生んでいる」とのご指摘は問題の一端を切り取っており、さらに掘り下げたいと感じました。」で締められていました。
 どうやら、朝日新聞社の「社論」は、「ブラック企業」で働く労働者の苦しみは、消費者のせいである、というもののようです。
 しかし、この主張には根本的な誤りがあると言わざるを得ません。

 これは、ちょっと「企業の常識」を考えればわかります。確かに、企業は、自分の商品・サービスを購入する顧客企業・消費者の意向を参考にして、商品・サービスを作ります。
 しかし、それには重要な前提があります。それは、「消費者の要望のうち、実際に採用されるのは、企業が儲かると判断したものだけだ」という事です。
 たとえば、スーパーで買物をしている人ならば、「スーパーのレジで行列ができているのに、隣のレジは閉まっており待たされる。全部のレジを開けてほしい」と思った事はあるでしょう。
 また、「お客様窓口に電話すると長時間待たされる。もっとすぐに出てほしい」と思った人も少なからずいると思います。
 しかし、いくら消費者が望んでも、それらの要望が解決することはありません。なぜなら、それをやっても企業にとっては利益にならないからです。
 AERAや朝日新聞がやり玉に上げている「24時間営業」や「宅配便の時間指定」も同様です。これらも企業が儲かるからやっているに過ぎません。

 では、働く人が苦しんでいるのが「消費者の過剰な要求」でないとしたら、何が労働者を苦しめているのでしょうか。
 答えは明白です。それは、企業が法令違反をやるからです。
 宅配便の件で言えば、AERAが「宅配労働者の苦労は、消費者の過剰要求のせいだ」という趣旨の記事を流した直後に、ヤマト運輸が残業代未払いで是正勧告を受け佐川急便の道交法違反が発覚しました。
 この現実からも、宅配労働者が疲弊しているのは、「消費者の過剰な要求」などのせいでなく、単に運営会社が利益を上げるために違法行為をやっているから、という事は明白ではないでしょうか。

 ところで、AERA・朝日の論調によれば、「消費者が不便さに我慢すれば『ブラック労働』はなくなる」なわけです。ところが、2年半ほど前に見た朝日の記事は、それと大きく異なるものでした。
 2014年3月に、相模鉄道がストライキをしました。労働者の待遇を上げるために、労働者としての権利を行使したわけです。
 それを報じた朝日の記事がありました。
 上に挙げたような論調にならうなら「消費者の過剰な要求が労働者を苦しめるのだ。だから年中無休で電車に動いてほしいなど過剰な要求などすべきでない。半日程度の運休など我慢すべきだ」と記事の中に書くのが自然でしょう。
 しかし、そのような視点は一切ありませんでした。
 その記事は「交通機関が止まったことに激怒する利用者」の談話だけを取っていました。さらに、最後には「クレーマー」としか言いようのない極めて非常識な乗客の行動すら、無批判に記事にしているのです。
 つまり、実際に「労働環境向上のために消費者が我慢すべき事態」が生じたら、「労働者がストをするとこんなに迷惑がかかる。それに対し、消費者は我慢する必要はない」という記事を書いているわけです。
 これを読めば、朝日新聞・AERAの「ブラック労働」記事がいかに空虚なものであるかが分かるのではないでしょうか。
 ちなみに本日も、川崎のバス会社でストがありましたが、各マスコミの記事は「10万人の足に影響が出た」とか「バスがなくて困った乗客の声」と「ストの害悪」ばかり報じました。そして、ストライキを行った労働者側の立場での報道は一切ありませんでした。

 「消費者が我慢をすれば『ブラック労働』は減らせる」というのは、一見、立派な主張に見えます。
 確かに筆者自身も、消費者の行動でおかしいと思うことはあります。
 しかし、その「消費者の過剰な要求」と「『ブラック企業』が違法労働する」事には、何の因果関係もないのです。
 にも関わらず、これらの記事は、その事実を歪めて消費者に責任を押し付け、「ブラック労働」を発生させている経営者の責任を隠しています。
 したがって、ここで紹介した記事を見たときは、「我々消費者も考え方を改めねば」などと真に受ける必要は一切ありません。
 単に、ああ、また商業マスコミが、お仲間の「ブラック経営者」擁護の記事を書いたな、と思えばいいだけの話なのです。

 

「ダラダラ残業」という都市伝説

 過労自殺を出した電通が「夜10時を過ぎたら全館消灯」という指示を出した事がニュースになりました。
 また、先日は、東京都知事が「午後8時で消灯」という指示を出したことも大きく報じられていました。
 いずれも、マスコミはこれを「長時間労働問題の対策」であると報じています。
 長時間労働の経験がある人で、これに違和感を覚えない人はいないと思います。
 にも関わらず、なぜ、このような報道がなされるのでしょうか。

 それは、表題にも書いた「ダラダラ残業」などというものが存在する事を前提に、記事が作られているからです。
 要は、「遅くまで残業している人は、残業代で収入を増やすために、8時間で終わる仕事を9時間以上かけてダラダラ行っている。だから消灯時刻を早めれば残業は減るのだ」という理屈です。
 ちなみに、自民党が国会に提出中の「高度プロフェッショナル制度」というものがあります。これについては反対する野党や労働者は「残業代ゼロ制度」と呼び、自民党に近いマスコミは「時間ではなく成果で評価される制度」と読んでいるものです。
 この「解説記事」にも、これで、「残業代を稼ぎたいがためにダラダラ仕事をする人がいなくなる」などという趣旨の事が書かれています。
 しかしながら、本当に「ブラック企業」が蔓延している現代日本社会において、そのような事は存在するのでしょうか。

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