カテゴリー別アーカイブ: 経済

「輸出戻し税」で儲かる会社と損する人々

 全国商工団体連合会(略称・全商連)は、年に一回、消費税の輸出戻し税試算額を発表しています。
 たとえば、トヨタなどは3,506億円もの輸出戻し税を国から還付されています。その結果、本社がある豊田税務署は、徴収する税金よりも、トヨタに払う輸出戻し税の支払いのほうが多く、2,982億円もの「赤字」となっています。
 輸出で儲けている製造業13社だけで、1兆4百億円もの輸出戻し税が還付されました。

輸出戻し税


 その一方で、国内の中小業者は、利益が出ていなくても消費税を払わねばなりません。しかも、この消費不況の時代に安易に販売価格に消費税を「転嫁」などできません。2014年に消費税が5%から8%に増税されましたが、少なからぬ中小業者は値上げなどできませんでした。つまり、身銭を切って消費税を納めているわけです、
 一方で、トヨタをはじめとする輸出大企業は、消費税率が上がれば上がるほど、輸出戻し税の金額が上がって利益が増える、という仕組みになっています。
 それもあって、経団連などは、執拗に消費税10%増税の実施と、さらなる税率引き上げを「提言」しているわけです。

 ところが、この「輸出戻し税」を批判すると、「これは正当・合法なものであり、批判するのは間違いだ」という言説が必ずついてきます。
 実際に筆者も会社員時代に、この輸出戻し税問題をネットで調べたところ、批判する言説と正当化する言説がそれぞれあり、どちらが本当だろうかと悩んだ記憶があります。

 ではどちらの言説が本当なのでしょうか?

 結論から言えば、この「輸出戻し税」は、今の制度のもとでは確かに「合法」です。輸出大企業は何一つ不正な事はしていません。
 しかし、だからこそこの「輸出戻し税」というのは大問題であり、一刻も早く制度を改めねばならないものなのです。

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「益税」という藁人形

 消費税増税のたびに、商業マスコミなどは「益税」というキャンペーンを行います。
 増税に苦しむ庶民の皆さんを尻目に、消費税増税で不当な利益を挙げている業者がいる、という宣伝です。
 しかしながら、消費税が導入されて30年経ちますが、「益税」で財をなした業者がいたなど、聞いた事がありません。
 あれだけ宣伝されているのに不思議な事もあるものです。一体なぜでしょうか。
 その答えは簡単です。現実に「益税」などは存在し得ないからなのです。

 まず、マスコミの言う「益税」とはなにか、から書いていきます。
 たとえば、毎日新聞の社説には「消費者が払った税の一部が事業者の手元に残る『益税』」と書かれています。
 その、「益税」で得をするとされているのはどんな事業者でしょうか。それは、「免税業者」と呼ばれる年商1000万円以下の事業者です。彼らは消費税を支払う義務がありません。
 そういった免税業者が経営する店では、消費者が消費税を払ったのに、税務署に行かず、事業者の利益になっている、と主張しているわけです。
 「免税業者の店で108円という値札の商品を購入した場合、8円は税金である。しかしながら、免税業者はその8円を自分の利益にしてしまう。一方で、課税業者は8円を税務署に収める。だから不公平だ」と言いたいようです。
 しかし、この言説は最初から最後まで一つ残らず間違いだらけなのです。

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「ダラダラ残業」は本当にあるのか

 安倍政権は「生産性革命」の名のもとに、高度プロフェッショナル制度(=残業代ゼロ制度)の導入を目指しています。
 この制度を推進する側から、以下の宣伝が繰り返し聞かれます。
 それは、「ホワイトカラーの仕事は成果で評価すべきである。この制度が実現したら、残業代目当てで暇なのに時間外も仕事をする『ダラダラ残業』がなくなり、むしろ労働時間は短くなる」というものです。
 しかし、これは本当でしょうか。

 この「残業代を得るために、わざとダラダラ仕事をする」が可能かどうかは、実際に会社で働けば分かります。
 現在、日本の企業は、利益を増やすために、様々な「努力」を行っています。
 その利益増の邪魔となる最たるものが「人件費」です。それを減らすために、リストラ・非正規への置き換えなど、様々な手段を講じてきました。
 当然、残業代などは、「人件費削減」の対象として、厳しく管理されます。

 自分も会社員時代、労働時間を管理する仕事をした事がありました。
 長時間労働が計上される社員・アルバイトを抽出します。すると、対象者に労働時間の短縮が命じらる、という仕組みになっていました。
 そのくらい、企業は、残業代抑制に力を入れています。なにしろ、人件費を削減すれば、確実に利益が増えるからです。
 先日も、千葉市のホンダ販売店で、「持ち帰り残業」せざるをえないほどの過重労働でうつ病になって自殺に追い込まれた元店長が労災認定された、ニュースが流れました。
 商業マスコミは「部下の時間外労働を抑えるために仕事を抱えた」などと表現しています。
 しかしもちろん、この亡くなった元店長が部下をおもんばかって代わりに仕事をやってあげたわけではありません。
 一般社員である部下の場合は残業代を払う必要がありますが、「名ばかり管理職」である店長はいくら働いても残業代を払う必要はありません。
 そのため、「人件費削減」のために一般社員がやっていた時間外労働を、残業代の出ない管理職に押し付けるという経営が行われました。それにより、このような過労自殺が発生したわけです。

 この一例を見るだけでも、残業代目当てで暇なのに時間外も仕事をする「ダラダラ残業」なるものが、今の日本企業で行えない事など、明白ではないでしょうか。
 もちろん、天下りだの強力なコネによる入社などで、ろくに働かないで高給を貰っている人はいます。しかし、それは一部の「特権階級」であり、普通に働く人とは違います。

 このような現状のなか、安倍政権と財界が進める「生産性革命」によって、高度プロフェッショナル制度(=残業代ゼロ制度)や裁量労働制の対象者拡大が実現したらどうなるでしょうか。
 先述したホンダ販売店店長のような働かせ方がさらに広がることは間違いありません。
 現時点ですら、「人件費を減らせば減らすほど利益が増える」という経営がまかり通っているわけです。それを加速する制度が実現することは、働く人にとっては過労死リスクが増える事以外の何物でもないのです。
 なお、このような制度が実現しても、「天下り」「コネ入社」という特権的地位にある人々の厚遇は相変わらずですから、そういう人たちの「ダラダラ」がなくなる事ももちろんありません。

 企業が「利益第一主義」のもと、人件費削減で際限なく儲けようとし、そこから多額の政治献金を貰っている安倍政権が、高度プロフェッショナル制度(=残業代ゼロ制度)などで、その儲けを実現させようとする、というのが「生産性革命」の本質です。
 このような働く人の命と暮らしを奪うような「革命」は絶対に実施させてはなりません。
 その代わりに、働く人の立場で、安心して生活できるよう、賃金を上げ、労働時間を短くする事が今の日本には特に必要ではないでしょうか。そのために、一部大企業の莫大な内部留保が少々減ったとしても、そのほうがむしろ日本で生活する人々が安心した未来を過ごすためには有益であると言わざるを得ません。