月別アーカイブ: 2004年10月

迅速すぎる決断

 イラクで日本人が拘束され、「自衛隊を撤兵しないと殺す」という声明が出されました。事件を起こした組織の「実績」から考えると、脅迫が実行に移される危険性は高そうです
 今回も自民党政府やその意を受けたマスコミにより、「捕らわれた日本人青年への批判」が行われています。それにより、世論の多くもそれに沿ったものとなっています。その結果、この事件についての認識は「こんな危険な時にイラクに行くのは愚かだ」などという「他人事」になっています。

 今回の事件に対して、小泉首相は即座に「自衛隊は撤兵しない」と明言しました。先週の土曜の夕方に「大地震の対策のために職場に戻るか」と「映画の舞台挨拶を見る」のどちらを取るかですらあれほど迷っていた人物と同じとは思えない迅速すぎる決断です。
 4月の事件の時もこの「撤兵しない」という決断は非常に迅速でした。この反応速度を見る限り、「日本人が捕まって自衛隊撤兵を脅迫された時」についてのマニュアルは派兵する前から完備されていたように思われます。
 私のこの推測が正しければ、スペインのように「日本国内でテロが発生し、自衛隊撤兵を求める犯行声明が出された場合」に対する自民党政府の対応もマニュアル化されているはずです。そこに記載されている行動規範は「国民の生命・安全を守る事を最優先する」なのでしょうか。それとも「テロに屈しない」なのでしょうか。

 今回の事件は、組織だって計画的に行われたようです。つまり「この類のテロ組織が具体的に日本人を標的にした」わけです。その「日本人を標的にした活動」がイラクにとどまらない事はすでにいくつかのテロによって実証されています。そのような中で自民党政府は「自衛隊派兵>国民の命」という事を迅速に決断しているわけです。我々一般国民にとっては「なぜこんな時にイラクに行ったのだ」などと論じる余裕があるほど、「他人事」の事件ではないと思うのですが・・・。

どの国のための外交?

 沖縄に行った外相が、8月のヘリ墜落事件で操縦士の技術を褒め称えました。報道によると、直後に「陳謝した」となっていますが、その記事を読んでみると「操縦士の技術レベルも分からないで言ったのは不適切だった」と「陳謝」し、続けて「あの狭い所に機体を持っていったのは、それはそれですごい」と言っています。つまり、発言そのものは意地でも撤回する気がないようです。
 そのような不評を買ってまで「何をやらかしても米軍は偉大だ」とでも主張したいのでしょうか。大統領選挙で頼まれもしないでブッシュ氏の「応援演説」をした首相や幹事長もそうですが、彼らはアメリカならびに現政権の忠誠心を表明したくて仕方ないようです。
 この墜落事件では、機体を回収した際に作業員が防護服を着ていた事が目撃され、「何か危険な物を積んでいたのでは」という疑いも持たれました。しかし、私の知る限りでは、その件について日本政府が米軍に問い質したという話は聞いていません。さらに、墜落したのと同型機の飛行再開についても、地元が反対しているにも関わらず、あっさり容認しています
 地元住民の声には耳を貸さずに、ひたらすら操縦士の技術を称える事に執着する外相。いったい、どの国の利害を代表して「外交」を行っているのでしょうか。

地方議員が言論を弾圧する時代

 本宮ひろ志氏の「国が燃える」という漫画が、南京大虐殺を題材にしました。すると、地方議員がその内容について抗議。すると出版社は連載を休載にしました。
 代表者のサイトにあった「抗議文」ですら所謂『南京大虐殺』は、当時の体験者や、研究者、学者により、諸説が分かれているところであり、ないという強力な証拠があるものの、あるという確証がない状態 中国の真偽定かでない写真を用い、百人斬りを事実として記載し、意図的 に歴史を歪曲している。との事です。
 ないという強力な証拠があるものの、あるという確証がないというのが議員氏の立場ですが、その人による抗議文ですら、「諸説が分かれている」と書かざるをえないわけで、問題にしている写真も「真偽定かでない」であり「偽造が立証されている」というわけではありません。
 つまるところ、ある種の政治思想の持ち主にとって看過しがたいものである、というだけです。絶対に正されなければいけない事実誤認とは違います。

 ところが、結局この抗議を受けて、掲載している集英社はあっさりとこの作品を休載に。さらに、それを報じた新聞記事はいずれも「ベタ記事」扱い。仮にも、議員が思想信条を理由に出版社に圧力をかけ、それにあっさり屈した事件にしては小さすぎます。
 少なくとも、しばらく前に話題になった「元外相の娘の私生活」などよりは、よほど「言論の自由」に関わると思うのですが。