月別アーカイブ: 2004年12月

2004年を振り返って

 この一年、いろいろな事がありました。個人的にはいい事も悪い事もありました。ただ、本ブログで取り上げている「政治・経済・社会・報道」に限って振り返りますと、悪い事はいくらでもあれど、いい事はほとんどなかった、と言えそうです。
 代表的な事件は、やはり4月の「イラク人質事件」でしょう。この件でまず判明したのは、自衛隊派兵などの効果で、イラクにおいて日本人が「敵」と認識されるようになった事が明白になった、という事です。
 その事実に目を向けさせないためにも、自民党政府・マスコミが一体化して「人質バッシング」を行いました。そして、それに煽られた少なからぬ人々が、「人質」となった方の家には嫌がらせの電話などが大量に来ました。この構造は、60年前の「非国民バッシング」の再来とも言えるかもしれません。
 また、この際に、「テロリスト」が自衛隊撤兵を要求した事から、「自衛隊撤兵はテロに屈する事になる」→「対テロに勝利するためにも、自衛隊は撤兵してはならない」という論調がこれまた自民党政府・マスコミによって流布されました。
 アメリカのイラク侵略に武力で反対する勢力を全て「テロリスト」とする事によって、イラク侵略の継続並びに、自衛隊による協力を「反テロ」とするという、これまた異常な論法です。今年に始まった事ではありませんが、この「反テロ」という言葉さえつけておけば、侵略行為だろうと残虐行為だろうと許される、みたいな風潮がより強くなった一年でもありました。

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他に選択肢はない?

 マスコミの社説などで、「○○以外の選択肢はない」という表現がたまに見られます(例1例2)。
 「マスコミがそう言うのだから」などと素直に読んでいると、「他に選択肢がないのか。ならば仕方がない」などと納得しかねません。しかし、一体その「選択肢」とは誰が作るのでしょうか。

 試験の選択式問題ではあらかじめ「正解」が決まっているにも関わらず、受験者を迷わせる「誤った選択肢」が二つ以上存在します。その、それぞれ一理ありそうな選択肢から、いろいろと考えた結果「正解」を選ぶわけです。つまり、「選択肢」というのは、正解である必要などないのです。
 加えて言えば、それまで「正解」とされていたものを疑い、不正解とされていた選択肢を再検討する事によって、科学は進歩していきました。
 ましてや、誰もが「正解」を知らない現時点においては、様々な「正解となりえる選択肢」が存在し、その外側にはさらに無数の「正解とは思えないが、選ぶ事ができなくはない選択肢」が存在するわけです。にもかかわらず、「他に選択肢はない」などと、他の全ての可能性を否定する、というのは果たして可能なのでしょうか。

 冒頭に書いたように、「他に選択肢はないのか、ではそれしかないな」と単純に理解してくれる人ばかりなら、このような物言いは説得力を持てるかもしれません。しかし、このようにちょっと突っ込んで考えてみれば、「他に選択肢はない」などという言葉を使って主張するのは、「事実としてありえない事」を前提に主張しているようなものだという事に気づかされます。
 逆に言えば、そのような無茶をしなければならないほど非論理的な事を主張する時に使うのが、「他に選択肢はない」という言葉である、と考えると分かりやすいのかもしれません。

サマワの情勢と派兵の関係

 自衛隊の派兵延長が閣議決定されました。その際に、「陸上自衛隊の派兵先であるサマワは安全なのかどうか」というニュースや論議がよく聞かれました。
 しかしながら、自衛隊が派兵されているのはサマワだけではありません。航空自衛隊はアメリカ兵ならびに軍需物資を輸送しつづけ、海上自衛隊もアメリカ補給艦及び駆逐艦に「物品の輸送」を何百回も行いました。これらが報道される事はあまりありません。しかし、こちらのほうが、陸上自衛隊よりもアメリカの軍事活動にとって重要な行為であると思えます。
 これらの「貢献」は当然ながら、サマワの情勢とはなんら関係なく行われています。したがって、サマワがどうなろうが、航空自衛隊や海上自衛隊の「貢献」が終了することはないでしょうし、万が一撤兵しようとしても、アメリカは難色を示すでしょう。

 こうやって考えてみると、小泉首相の「自衛隊のいる所が安全なところだ」発言も、サマワに五時間滞在して「安全を確認した」という防衛長官の言動も、別の意味で理解できます。サマワの治安状況についての論議をのらりくらりとかわしながら派兵を継続し、それ隠れて比較的目立たない形で航空自衛隊や海上自衛隊が「貢献」を継続する、という図式は自民党政府にとっては理想的な展開でしょう。
 今後も、サマワの治安=派兵の是非、みたいなニュースが流れるのに隠れて、どれだけ自衛隊が「アメリカ軍に貢献=イラクの人々の虐殺に協力」するのだろうか、と思うと陰鬱な気持ちになります。