前回、日本の経済において、富が一部の層のみに集中し続けている、という状況について書きました。
今回は、なぜそうなっているのか、さらにはこの状況が続くと、どのような世の中になるか、について書きます。
20世紀半ばの「高度成長」は、低価格な製品を輸出する事による外貨獲得・新技術の開発などによる生産性の向上・国民全体が豊かになって内需が増えた、などが要因でした。
さらに、当時は労働運動が普通の先進国並みに行われていました。したがって、企業の儲けも、ある程度は適切に労働者に分配されていました。
その結果、一般庶民も含め、国の大多数に「富」が分配されたわけです。
しかし、現在の日本は、当時の状態とは180度異なります。
仮に新技術が発明されても、それによって日本だけが生産性が向上するなどという事はありません。また、価格・品質においても、海外との競争で勝つのは難しいでしょう。事実、日本の貿易収支はついに赤字になってしまいました。
そして何よりも、一番肝心の内需のほうでは、ごく一部を除き、国民の収入は減り続けています
つまり、「日本経済再生」を目指すとしても、かつての高度経済成長と同じ方法を取ることはできないわけです。
そんな中、大企業が利益を上げ続け、富裕層がさらに豊かになるには、どこから「富」を持ってくるのが一番効率的だったのでしょうか。
その答えが、労働者を初めとする、豊かでない人から吸い上げる事、だったのです。
一番分かりやすいのは人件費です。たとえば、1万人の従業員がいる会社が、減給や人員削減などで一ヶ月に一人あたりの人件費を1万円減らしたとします。それだけで、1ヶ月で利益が1億円も増えます。
そのため、本業で失敗した大企業はリストラに走ります。人員削減の際には、一時的に退職金の上積みなどで損失が発生します。しかし、人件費の削減は確実に利益増加となり、その分の損失など短期間で元が取れてお釣りが来ます。その結果、いとも簡単に「V字回復」を達成できるのです。
利益を分配せずに貯めこむもう一つの方法は、法人税減税です。これまでも、連結決算の導入などで、大企業が本来払うべき法人税を払わないで済むようにできる制度を構築してきました。
そしてさらに、法人税減税が行われ続けているわけです。たとえば、法人税の対象となる利益が100億円ある会社にかかる税率が1%減ったとします。それだけで、その会社の純利益は1億円増えます。
これほど効率的に利益が増える仕組みはなかなかないでしょう。だからこそ、財界は繰り返し法人税減税を主張し、商業マスコミはそれを宣伝し続けるわけです。
そして、その結果減った税収の減少分は、住民サービスの低下および、消費税や国保料などの増税による負担増となって、「富」のない人々が負担させられるわけです。
このように、弱者から吸い取って、一部の人のみがさらに豊かになっているわけです。「吸い上げ型経済成長」とでも名付けるべきでしょうか。