月別アーカイブ: 2013年1月

「吸い上げ型経済成長」とその行く末

 前回、日本の経済において、富が一部の層のみに集中し続けている、という状況について書きました。
 今回は、なぜそうなっているのか、さらにはこの状況が続くと、どのような世の中になるか、について書きます。

 20世紀半ばの「高度成長」は、低価格な製品を輸出する事による外貨獲得・新技術の開発などによる生産性の向上・国民全体が豊かになって内需が増えた、などが要因でした。
 さらに、当時は労働運動が普通の先進国並みに行われていました。したがって、企業の儲けも、ある程度は適切に労働者に分配されていました。
 その結果、一般庶民も含め、国の大多数に「富」が分配されたわけです。

 しかし、現在の日本は、当時の状態とは180度異なります。
 仮に新技術が発明されても、それによって日本だけが生産性が向上するなどという事はありません。また、価格・品質においても、海外との競争で勝つのは難しいでしょう。事実、日本の貿易収支はついに赤字になってしまいました。
 そして何よりも、一番肝心の内需のほうでは、ごく一部を除き、国民の収入は減り続けています
 つまり、「日本経済再生」を目指すとしても、かつての高度経済成長と同じ方法を取ることはできないわけです。

 そんな中、大企業が利益を上げ続け、富裕層がさらに豊かになるには、どこから「富」を持ってくるのが一番効率的だったのでしょうか。
 その答えが、労働者を初めとする、豊かでない人から吸い上げる事、だったのです。
 一番分かりやすいのは人件費です。たとえば、1万人の従業員がいる会社が、減給や人員削減などで一ヶ月に一人あたりの人件費を1万円減らしたとします。それだけで、1ヶ月で利益が1億円も増えます。
 そのため、本業で失敗した大企業はリストラに走ります。人員削減の際には、一時的に退職金の上積みなどで損失が発生します。しかし、人件費の削減は確実に利益増加となり、その分の損失など短期間で元が取れてお釣りが来ます。その結果、いとも簡単に「V字回復」を達成できるのです。
 利益を分配せずに貯めこむもう一つの方法は、法人税減税です。これまでも、連結決算の導入などで、大企業が本来払うべき法人税を払わないで済むようにできる制度を構築してきました。
 そしてさらに、法人税減税が行われ続けているわけです。たとえば、法人税の対象となる利益が100億円ある会社にかかる税率が1%減ったとします。それだけで、その会社の純利益は1億円増えます。
 これほど効率的に利益が増える仕組みはなかなかないでしょう。だからこそ、財界は繰り返し法人税減税を主張し、商業マスコミはそれを宣伝し続けるわけです。
 そして、その結果減った税収の減少分は、住民サービスの低下および、消費税や国保料などの増税による負担増となって、「富」のない人々が負担させられるわけです。
 このように、弱者から吸い取って、一部の人のみがさらに豊かになっているわけです。「吸い上げ型経済成長」とでも名付けるべきでしょうか。

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経済は不振なのに富裕層は増え続ける日本

 現在、日本の経済状態が後退し続けている、というのは多くの人々にとって共通の認識だと思います。
 そして、かつての「経済大国」に戻るべく、様々な提案が行われ、かつ実施されました。安倍首相の年頭所感も「まずは強い経済を取り戻す」だったとのことです。
 そのように、多くの政財界の人々が日本経済復興のための政策や計画をいくつも立て、実施しています。
 しかしながら、ここ10年以上、会社などで働いている人・自営業者・農民などのほとんどは、生活が苦しくなり続けています。収入は減るのに、負担と働く時間は増える一方です。
 しかも、今後の実施が予想される政策を見ても、消費税増税を筆頭に、より生活が苦しくなるようなものばかりです。
 なぜ、あれだけ多くの「偉い人」たちが、経済復興を目指して努力しているのに、なぜ我々の生活は苦しくなり続けるのでしょうか。

 その現象の原因を探るのに、興味深いデータがあります。
 それは、クレディ・スイス銀行という所が昨年10月に発表した、「グローバル・ウェルス・レポート」-日本についての分析-(※PDF注意)という資料です。
 「ウェルス」は「富」という意味です。この資料は、その日本の「富」がどのように推移しており、今後どのような推移が予想されるか、という事が記載されています。
 そこに記載されている事を箇条書きでまとめると、以下のようになります。

  1. 日本の家計の富の総額は、対ドル円高進行の影響もあり(前年比約2.5%)、前年比1.3%増の28.1兆ドル(約2,190兆円)に拡大
  2. 日本においては、100万ドル以上の純資産を有する富裕層は前年比で8万3,000人増加し360万人
  3. 純資産5,000万ドル以上を有する超富裕層(UHNW)は3,400人で世界第4位
  4. 2017年までの向こう5年間でみると、日本の富裕層人口は51%増加し、540万人に拡大すると予想
  5. 所得格差の代表的指標であるジニ指数でみると日本は60%と、国際基準でみても日本は所得格差が少なくなっている。

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