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アベノミクスの「実績」と方向性

 「アベノミクス」と呼ばれる経済政策が行われるようになってから1年半近く経ちました。
 その結果、株価が上がり、ユニクロやソフトバンクの社長は、数千億円も資産を増やしました。
 一方で、株も資産もなく、普通に働いている人は一向に豊かになりません。そういう事もあり、安倍首相も「今年の目標は景気回復の実感を全国津々浦々に届けることだ」と、正月、4月と二度にわたって演説していました。
 同様に、「アベノミクス」を持ち上げる商業マスコミも「後はアベノミクスの実感が広がるかが鍵だ」などと書いています。

 これらを真に受けると、いかにも今年中には、「アベノミクスによる景気回復」を1億数千万の国民全てが「実感」できるほど豊かになれるように思えてしまいます。
 しかし、そのような日は本当に来るのでしょうか。
 実は、「アベノミクス」でそのような日が来ることはないのです。今回は、それを図で示してみました。
 これは、経済の分配を水槽にたとえてみたものです。水槽が社会全体、水が経済状況を示しています。

平等な状態

平等な状態


 水槽が平らな所に置かれていれば、「図1」のように、水の深さは全て同じになります。ある意味理想的ですが、さすがにこのような状態は世界中どこにもありません。どうしても、水槽が傾き、貧富の差が生じています。
 たとえば、「図2」のような状態です。水槽が傾いているため、豊かな層とそうでない層では、水深に違いが生じてしまいます。
高度成長期の頃

高度成長期の頃


 とはいえ、この位なら、ある程度の水は行き渡ります。日本が「経済大国」だった、20世紀の中盤から後半にかけては、こんな感じでした。

 それが、バブル崩壊以降、その「傾き」が顕著になり、「図3」のようになりました。

20世紀末から今世紀にかけての日本経済

20世紀末から今世紀にかけての日本経済


 「図2」の頃は、貧富の差こそあれど、日本で暮らしていれば、ほとんどの人が衣食住はなんとかなっていました。
 しかし、この「図3」のように、水のない場所ができてしまいました。そこに位置する人の中には、住むところも失う人も多々いました。
 その結果、生活保護の受給者・支給額とも増え続けているわけです。そして、正社員になれる人も減り、その分、不安定・低賃金の雇用が増えました。
 そして、企業は利益が下がれば、人件費削減という事で、「派遣切り」「雇い止め」を行います。その結果、住む所を失う人がまた増えました。
 さらに、餓死する人まで出てきている、というのが現状です。

 そのような人々が増える一方で、図の右側に位置する層の人々は、これまで以上に豊かになれました。莫大な資産を得た人々は沢山誕生しました。
 ところが、そのような「優秀な経営者」は、より豊かになろうとします。これまで、そうやって富を築いてきたのだから、ある意味当然の行動と言えるでしょう。
 その「より豊かになる方法」が、水槽の傾きは変えずに、中にある水の総量を増やす、という方策であれば、彼らと同時に、豊かでない人も一緒に幸せになれたかもしれません。
 しかし、現在の成熟した日本経済で、高度成長時代のように「水量を増やす」のは至難の技です。
 その結果、彼らがさらに豊かになる方法として考えたのは、より一層水槽を傾ける事でした。これならば、簡単に豊かになれます。

 その「水槽を傾ける」圧力が一番露骨に行われたのは、2009年から2012年までの民主党政権時代に宣伝された「六重苦(円高、法人税が高い、貿易自由化の遅れ、労働規制が厳しい、温室効果ガス抑制策、電力不足)」でした。
 もちろん、民主党政権も本質的には富裕層の利益を重視した政治を行っていました。しかしながら、一時的に「コンクリートから人へ」などのスローガンを掲げるなど、自民党政権に比べると「水槽を右側に傾ける」事に消極的でした。
 そこで、財界および、その意を受けたマスコミは、より水槽を傾けるべく、「日本経済は六重苦のせいで停滞している」と繰り返し宣伝しました。
 政権交代後、その財界の要望を、ほぼそのまま実行したのが「アベノミクス」でした。
 その中でも、一番早く実行されたのが円安でした。おかげで、輸出が軸となる自動車産業などは、大幅に利益が増えました。一方で、輸入品が高騰し、それを使って製造を行う中小業者や、一般の消費者は実質的に収入減となったわけです。
 水槽にたとえれば、傾いたほうは、より深くなりました、その代償として、浅くなったり、干上がってしまった部分が増えていったわけです。

 そして、今後「アベノミクス」が目指すものも、この財界の要求に沿っているわけです。
 先日打ち出した「残業代ゼロ」をはじめ、派遣法の改悪など、働く人の賃金単価が下がるような政策ばかり打ち出しています。これも、「厳しすぎる労働規制の緩和」を意図しているわけです。
 この「労働規制の緩和」は、ある意味一番分かりやすい政策です。
 要は、これまで働く人に支払われていた金を払わず、企業の営業利益にまわす、という意味なわけです。
 これが実現すれば、「図4」のようにますます「水槽」は傾きます。一部の豊かな人がさらに豊かに、それ以外の人が貧しくなるわけです。
 

「アベノミクス」が津々浦々に行き渡ったらこうなる

「アベノミクス」が津々浦々に行き渡ったらこうなる


 法人税減税も同様です。それで減った国家の歳入が、社会保障の削減や消費税の増税で賄われるのは、過去の例から明白です。
 つまり、大企業が負担していた法人税を、豊かでない人が代わりに負担させられるわけです。

 このように、この一年半近くの間に実際に起きた事、さらには現在安倍内閣が打ち出している事を見れば、日本経済という「水槽」をより一層、富裕層の側に傾けようとしている事は明白です。
 にも関わらず、政府や商業マスコミの宣伝を信じて、「アベノミクスの恩恵がいつか自分達の所に来る」と信じていても、その日は本当に来るとは考えづらいです。それどころか、より一層、「水槽」が傾き、その結果、やがて自分達まで干上がってしまうのではないでしょうか。