「シルバー民主主義」と「世代間格差」

 マスコミがよく宣伝するものに「シルバー民主主義」というものがあります。
 これは、「若者の投票率が低いため、政治家は投票率の高い高齢者を優遇する政治を行う。その結果、『世代間格差』が発生した。だから、若者は選挙に行くべきだ」というものです。
 最後に書かれた「若者は選挙に行くべきだ」自体は間違っていません。そのため、この主張を好意的にとらえる人は少なくありません。
 しかしながら、この言説全体は、本当に正しいのでしょうか。

 まず、結果として起きていると言われる「世代間格差」なるものが事実かどうかを見てみます。
 これらの言説で「高齢者を優遇する政治」という言葉はよく使われますが、具体的な内容の指摘はありません。
 では実際に、高齢者に対してどのような政治が行われているのでしょうか。
 高齢者の収入源である年金は削減される一方です。その結果、生活に困る老人が増えています。にも関わらず、今後もさらなる年金引き下げが計画されています。
 さらに、医療・介護なども改悪される一方です。いずれも、さまざまな形でのサービスが切り捨てられており、長生きしづらい世の中になっています。
 その結果もあり、「老々介護」という言葉が一般化し、さらにその疲れによる高齢者の「夫婦間殺人」が毎月のように報じられています。さらに、高齢者が孤独死するというニュースも増えました。
 これが現実であり、「シルバー民主主義」論者が主張するような「高齢者を優遇する政治」など、どこにも行われていません。
 確かに若者が今の政治で冷遇されているのは間違いありません。しかしながら、それは「高齢者を優遇して若者を冷遇」ではありません。「若者も高齢者も冷遇する政治」なのです。

 つまり、「投票する世代を優遇する政治」など実際には行われていないのです。これは、「本当に優遇されている人・組織」を見ても分かります。
 たとえば、現在沖縄では、米軍の基地や訓練所の建設が大問題となっています。
 自公政権は一貫して「アメリカ軍の味方」として、反対する地元住民を冷遇・弾圧しています。また、基地周辺の人々は、支持政党と関係なく騒音に困っています。
 「投票した人のための政治を行う」ならば、日本の選挙権を持たない米軍・米兵でなく、沖縄の住民のために政治を行うはずです。しかし、現実にはそれと正反対の事が起きています。
 経済政策においても同様です、安倍首相が就任以来ずっと言い続けている言葉に「日本を、世界一企業が活躍しやすい国にする」があります。
 そして、その言葉通り、法人税引き下げを始めとする、企業優遇策を行い、日本企業の収益増加と外国企業の呼びこみを進めています。
 確かに日本の大企業は、資金面では自民党に多大な貢献をしています。しかし、企業には選挙権はありません。また、大企業が自民党の票田になるわけでもありません。
 さらに、政府が優遇して呼びこもうとしている海外企業は、米軍同様、日本の選挙権とは無縁の団体です。
 その企業を優遇したり呼び込んだりするために、「残業代ゼロ制度」や派遣法の改悪など、日本の有権者を苦しめて「世界で一番企業が活躍しい国」を作ろうとしているのが自公政権が現在行っている事です。

 以上の事からも、政治家が自分に投票した人・世代を優遇する政治を行う、などという事が、事実でない事は明白です。
 さらに言えば、バブル崩壊以降の「失われた20年」の間、特に若い世代を苦しめる政策が行われてきました。しかし、その20数年で、若い世代の得票数が一番多かったのは自民党でした。
 その現状を見れば、仮に、20代の全員が自民党に投票したところで、自民党が20代を苦しめている奨学金や「ブラック企業」問題を解決する、という可能性はゼロであると言わざるをえないでしょう。
 なお、高利の奨学金にしろ、「ブラック企業」にしろ、そうやって若い世代を冷遇する事によって、高齢者世代が得をする事など何もありません。このところからも、「シルバー民主主義」なるものが存在しない事が分かるかと思います。
 同時に、「シルバー民主主義」「世代間格差」などという言葉で若者を煽る勢力の目的が、「若い世代が冷遇されている真の原因に気づかせないため」である、という事も浮き彫りになってくるのではないでしょうか。