軍事力で人々の安全は守れるか?

 2020年の年明け早々、アメリカはイランを攻撃し、革命防衛隊幹部を殺害しました。
 それに関するトランプ大統領の談話は「米国は戦争を始めるためではなく、戦争を食い止めるために行動した」でした。
 軍事行動を起こす指導者はこのように、平和や安全のために軍事力を使ったといいます。しかし、本当にそうなのでしょうか。

 軍事力が平和や安全に寄与するのなら、軍事力が大きければ大きいほど、その国に住む人は安心して暮らせるはずです。
 しかし、そのような事はありません。
 昨年暮れの「しんぶん赤旗」には、イスラエルで暮らす人が、ミサイル警報に恐怖をおぼえている体験記が掲載されていました。
 新しい建物ならば「防弾用の部屋」があるそうですが、それがないと、外を歩いてシェルターに避難するよりなくなります。
 警報が出ると、学校も会社も休みになるとのことです。
 ところで、イスラエルは軍事力がないからこのような不安な生活を送らざるをえないのでしょうか。
 もちろんそんな事はありません。イスラエルといえば、核兵器すら保有している軍事大国です。
 その軍事力で、領土を広げたり、パレスチナの土地を侵略しています。
 しかしながら、その軍事力はイスラエルで暮らす人の安全を守るのには役立っていないわけです。

 軍事国家であるイスラエルは、ミサイル攻撃にがあれば、パレスチナに「反撃」をします。その結果、子どもを含めた多くのパレスチナ人の命が失われているわけです。
 しかし、いくらパレスチナの人を奪ったところで、そのぶん、イスラエル人の安全性が増すわけではありません。
 ちなみに先日、イスラエルで、ロケット弾飛来の警報が鳴り、近くで政治集会を行っていたネタニヤフ首相が集会を中止してシェルターに避難した、というニュースがありました。
 首相ですら、その強大な軍事力ゆえの安全を享受できないのです。

 かつての日本もそうでした。
 強大な軍事力でアジア大陸や島々を侵略し、領土を広げました。そして、アメリカをはじめとする各国に戦争を仕掛けました。
 しかし、その反撃を受けて、日本列島が空襲にさらされたとき、その強大な軍事力はほとんど役に立ちませんでした。
 それどころか戦闘が繰り広げられた沖縄では、日本軍が沖縄の住民を殺したり、自殺を強制させるなどという事例が相次ぎました。
 ちなみに、敗戦前年の1944年における、国家予算に対する軍事費の比率は、85%でした。敗戦の年も8月にポツダム宣言を受諾したにも関わらず、72%でした。(参照・帝国書院サイト)
 それだけ多額の軍事費を使いながら、各地が焦土となり、ついには核兵器まで落とされ、三百万もの日本人が命を失ってしまいました。
 国家予算の7~8割を占めた軍事費は、他国で暮らす何千万もの人が命を奪いはしましたが、日本で暮らす人の安全は守れなかったのです。
 このように、いくつかの事例を見るだけで、軍事力は普通に暮らしている人々の安全を守るのに役にたたない、という事は明白です。

 では、軍事力は人々の安全を守らず、何を守っているのでしょうか。
 一番直截的なのは、軍事企業の利益です。
 各国が軍事力を増強すればするほど、それは軍事企業の利益に直結します。
 アメリカの軍事企業がトランプ政権に影響力を行使した結果、アメリカの軍事費は増加しました。そればかりか、日本にまで兵器を売りつけている有様です。
 そこで購入するのは、一台で100億円もするステルス戦闘機や、敵地を襲撃するためのオスプレイなわけです。
 ちなみに、昨年秋に千葉で行われた武器見本市にはイスラエルの軍事企業も出展していました。
 自国に住む人がミサイル攻撃にさらされ、シェルター避難をするほと危険である一方で、日本まで出向いて、兵器を売り込んでいるのです。
 これなどは、軍事力の存在意義が人々の安全を守るためでなく、軍事企業が利益を挙げるためのものである、という事を象徴しているでしょう。

 もうひとつは、権力者が自分の地位を誇示したり守ったりするという目的です。
 今回、軍事行動を指示したトランプ大統領は、ウクライナ問題で弾劾を受けている最中です。
 大統領が弾劾を受けるのは22年前のクリントン大統領以来です。
 そのクリントン大統領も、弾劾裁判中にイラクにミサイル攻撃を行っていました。
 軍事力をして成果を上げれば、権力者に対する国民の支持は上昇します。そのために、軍事力行使そのものが目的化している例は多々あります。
 もちろん、一時的に気分は良くなるかもしれませんが、それによってその国に住む人の暮らしが良くはなりません。
 むしろ、軍事費増大による福祉・社会保障の削減より、生活は悪化します。
 トランプ大統領が、就任以来、軍事費を増やし続けている一方で、前政権が始めた健康保険制度を後退させた、というのはそれを象徴しています。

 もちろん、軍事費が増大し、軍事力が行使される理由はこれだけではありません。
 しかしながら、その理由が、「そこで暮らす人の安全を守るため」でないことは、現状を見ても、過去の歴史を見ても明白です。
 今回、トランプ大統領が行った軍事行動によって、イランでもイラクでも、そしてアメリカでも住民が危険にさらされる事はあっても、安全になる人などいません。
 軍事力によって我々の安全が守られているというのは「神話」であり、現実は正反対です。むしろ、普通に暮らしている人の安全と生活を脅かしているのが軍事力なのです。

 話が少し変わりますが、日本共産党は、自衛隊の即刻廃止は主張していません。現時点において、緊急不正の事態が生じたら自衛隊も含めた国家機関を最大限活用する、としています。
 実際、2019年秋の台風災害では、現地で被害対策を行っていた、かばさわ洋平日本共産党市議が、自衛隊に情報を提供して、災害救助を依頼した、という事例がありました。
 同時に日本共産党は、「自衛隊については、海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる。」と綱領に明記しています。
 残念な事に、国内外を問わず、多くの方々が「軍隊のおかげで安全は保たれている」と考えているのが現状です。
 そう思わせるために、軍事力を持つ政府も、軍産複合体も多額の金をかけて宣伝しているのですから、無理もありません。
 大変時間がかかるとは思いますが、そういう方々に、「軍隊は安全な生活を守るのに役立たない。むしろ生活に悪影響を及ぼす」という事を伝えて合意を得る事ができるよう頑張らねばと、あらためて強く思いました。