田中親子と金大中氏誘拐事件

 まだ小泉政権が誕生する前に出た記事だが、毎日新聞に岩見隆夫氏の署名つきで以下のような内容の記事が掲載された。

 田中真紀子現外相が、回想として27年前の金大中現韓国大統領誘拐事件について「もう話していいでしょうね」と前置きして、「騒動の最中に韓国の大使から田中首相(当時)の私邸に電話が入った。その電話を取り次いだ彼女が隣室にいると、しばらくして田中 首相(当時)が『殺すな、爆撃するぞ!』と大声を出した」という話を紹介した。この一言が金大中現大統領の生命をつなぎ留めることになったのかもしれない。(原文

 仮にも首相在職中の汚職事件で有罪判決を受けた政治家をよくもここまで持ち上げることができるものだ。それにしても、この話、読めば読むほど不可解だ。
 だいたい、私邸でのこととはいえ総理大臣あての電話を、秘書でもない「お嬢様」が受けるのだろうか。さらに、大声を挙げたとはいえ、その電話の内容が隣室で聞くことができる、というのである。田中角栄元首相が権力を振るっていたころ、「目白」といえば多数の政治家が訪れ、そこで重大な決定が行われていたところである。この「回想」のような環境で、そのような事が行われたとは考えられない。
 また、「殺すなよ、爆撃するぞ」というのも異常な発言だ。もちろん、「日本国内で韓国の反体制政治家が誘拐されて殺される」などというのは日本の体面上よくない。しかし、だからと言って、「もし殺したら戦争するぞ」などと宣言するほどの事なのだろうか。だいたい、当時も今も日本には憲法九条が存在するのだ。仮にも一国の首相が大使相手にそのような発言をしたら、政治家の誘拐以上に重大な問題となってしまう。

 ご存知の通り、田中真紀子氏は、外相就任後に物議をかもすような発言をし、数日後に撤回する、というのを一度ならずやっている。したがって、仮にこの「回想談」についても、詳細を突っ込まれればあっさりと「記憶違い」という事で撤回するのだろう。
 とはいえ、あまりにも非常識な発言であると言わざるをえない。さらに、それに対して提灯記事を書いた記者および掲載した新聞社の感覚も疑わざるをえない。

 なお、この金大中氏誘拐事件においての田中角栄首相(当時)の対応については、今年の頭に文芸春秋で元側近の人から全く違う内容の証言が寄せられている。
 それによると、事件が発生した直後に韓国の閣僚より証言者に田中角栄首相(当時)への面談の依頼があり、後日取り次いだところ、「大きな紙袋二つと大統領からの親書を渡された」というものである。(※文芸春秋のサイトには掲載がなかったので、原文は入手できず。引用サイト1引用サイト2
 証言者がどれくらいの立場だったかは解らないので、一概に「この証言のほうが正しい」と断言することは筆者にはできない。しかし、「殺すなよ、爆撃するぞ」よりははるかに信憑性があると言えるだろう。
 それにしても、記憶に問題がある外務大臣が、何かの機会に金大中大統領に対して「私の父は貴方の恩人ですよ」などと言い出さないか、一国民としては不安でならない。



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