何のためのアフガン空襲

 ニューヨークの貿易センタービルと米国防総省に旅客機が墜落して2ヶ月半近くたった。その後も炭疽菌入りの郵便がマスコミなどに送られて死者が出たり、ニューヨーク発の旅客機が市街地に墜落するなど、不審な事件が多発している。
 一応、FBIなどがいろいろと捜査し、容疑者を逮捕したり、テロ組織「アルカイダ」の資金源を絶とうとしているようだ。しかし、取り立てて目立った成果はまだ上がっていないようだ。
 その一方で、事件から約1ヵ月後にアメリカとイギリスがアフガニスタンに報復攻撃として空襲を開始した。理由はアフガニスタンの政権を掌握しているタリバンが首謀者と目されるビンラディンを匿っているから、というものである。
 建前では「空爆は軍事施設のみを狙っている」という事になっている。しかし実際には民家などに大量の「誤爆」がなされ、多数の民間人の死傷者が出ている。さらに、不発弾による死傷者も少なくない。
 日本のマスコミは「大本営発表」で「軍事施設のみ空爆」という報道を垂れ流しているわけだが、56年前に「重要な軍事施設がある」という建前のもとに広島に原爆を落とした国が、そのような人道的なマネをするわけない事くらい、ちょっと考えれば分かるとしたものだ。
 こうして、アフガニスタンの一般市民を虐殺する一方で、アフガニスタンでタリバンと戦っていた「北部同盟」に軍事援助を行い、首都・カブールを始めとする主要都市を攻略させたわけである。
 その間、NHKの7時のニュースは、毎日のように最初の20分くらいをこの戦争に充てていた。内容はひたすら、「アメリカ・北部同盟=好調・善、タリバン=落ち目・悪、一般市民=反タリバンで北部同盟を歓迎」というものを繰り返し報道するのみだった。新聞社のテロ・アフガン関連の特集を見ても、似たような感じだった。連日の空襲に関わらず、一般市民の死傷者についての映像はまるで流されなかった。

 その結果、外国産の装備で身を固めた北部同盟が首都を制圧し、タリバン政権は敗走した。はっきり言って、これは単なる内戦の結果でしかない。しかし、この事があたかもテロ事件の解決の始まりかのように報道された。
 こんなことは実際には何の解決にもなっていない。確かに少しはビンラディンを逮捕しやすくはなったとは思うが、内戦と空襲で大量の死者を出した事に見合うほどの成果であるとは到底思えない。また、万が一ビンラディンを捕獲なり殺害なりできたとしても、テロの危険性は増えることはあっても減ることはないだろう。
 しかも、タリバン政権がほぼ壊滅状態に近くなったのにもかかわらず、爆心地から500m以内のものを吹き飛ばせるほどの強力爆弾を投下した。このあたりの発想も56年前の広島・長崎に近いものを感じる。
 これに対しての報道も非常に他人事だ。山岳でのゲリラ戦の展開予想などだと軍事評論家が出てきてああでもないこうでもない、と論評するわけだが、このような大量殺傷兵器の使用については、アメリカ提供の「爆弾で森を焼き尽くす」というビデオを流すだけである。

 結局、一連の経緯を見ると、「ニューヨークで一般市民が虐殺されたから、こちらもアフガンの一般市民を虐殺してやる。ついでに内戦に介入して反米思想の政権も倒す」という事でしかなかった。
 20世紀には二つの世界大戦をはじめ、多数の戦争が発生した。兵器の発展により、これまでにない数の人々が死んだり傷ついたりした。不敗だったアメリカも、ベトナムにおいては多くの兵士を失って敗れた。
 にもかかわらず、世紀が変わっても相変わらず、「報復」だの「正義」だの「人道」をとなえて戦争を行い、多くの一般市民を虐殺する。このような事実を見ると、ここ数十年間、人類は精神的には全然進歩していないのではないかと思い、暗い気分になってしまう。



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