今回の衆院選において、自民党は2005年の改憲を明言した。「マニフェスト」にはあわせて、「防衛庁を防衛省にする」という一文もある。対する民主党も「創憲」なる言葉で憲法を変える事を宣言している。
その主眼は第9条
(1)日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。
(2)前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。
を「改正」する事だ。
「憲法改正」を主張する際によく用いられる理屈としては、
- 日本が他国から侵略を受けたとき、第9条が邪魔して守る事ができない。
- この憲法はアメリカ占領下で押し付けられたものであり、「日本人の作った自主憲法」が必要。
- 公布から55年以上たっており、古びている。
あたりだろうか。
一番目のものは、1990年以前までは「ソ連の脅威」を口実に語られてきた。つまり「ソ連が攻めてきたらどうするのだ?」という論法だ。しかし、この強大な軍事力を持つ隣国が攻めてくる事はついになかった。
ソ連崩壊後は北朝鮮が新たな「仮想敵国」となった。確かに、この国はいろいろな意味で異常な点が多い。しかし、経済的な問題を見ても、日本に攻め込んでくるというのは考えづらい。実際、タカ派の政治業者でも「北朝鮮に攻め込め」と主張する人はいるが、「北朝鮮が攻めてくる」と主張する人は、最近では目立たなくなっている。
二番目の「アメリカ押し付け」だが、確かに当時の日本は名実ともにアメリカの占領下にあったのだから、憲法にもアメリカの意向が反映されていた部分は少なからずあっただろう。
そのアメリカは当時よりより一層、軍事力を強化し、気に入らない国に難癖をつけ、空爆で一般市民を虐殺し、政権を崩壊させている。そして、在日の米軍基地もその戦略を担う重要な拠点となっている。
したがって、「そのようにアメリカが暴虐にふるまうのはよくない。したがって9条をより強化し、第2項に『他国の軍隊の駐留も認めない』という項目をつける」というなら、確かに「アメリカ占領下の呪縛から逃れた自主憲法制定」と言えるのかもしれない。
しかし、自民党などの改憲論者の主張はその反対だ。現在自民党政府が目指している自衛隊のイラク派兵はアメリカのイラク占領政策における戦力・財政を日本に負担させる、という戦略に従って行われている。今後も、同様の事が生じた場合に、憲法が自衛隊の展開の障害となる。そのためにアメリカからも憲法9条改憲の要求が来ているのが、今回のマニフェストに自民党が改憲を明記した理由の一つだ。
つまり、今回の9条改憲は「アメリカに押し付けられた改憲」になってしまうわけだ。したがって、「現憲法はアメリカに押し付けられたから9条改憲」という論法は成り立たない。
最後の「55年もたったから」もそれだけでは解らないことはない。しかし、それに対して自民党の議員などの意見を読んでみると、あの「日本は神の国」発言を筆頭に、「明治憲法の再評価」「日本の伝統の見直し」だの「教育勅語の復活」だのと、より古い時代のものばかり引っ張り出してくる。つまりは、9条改憲も、「大日本帝国軍の復活」的な思想が元になっているわけだ。「55年もたって古くなったから120年前のものを復活させる」ではギャグにもならない。
春のアメリカのイラク戦争において、かつて侵略戦争を行った事もあったドイツ・フランス・ロシアはアメリカの方針に反対しつづけた。もちろん、純粋な平和を愛する意思だけによるものではないだろう。しかし、かつての「他の大国が侵略戦争をするから、対抗して自分達も侵略戦争を競い合った時代」よりは進歩しているのは確かだ。自民党政府も「55年たったから」と言うのなら、そのように、人類の進歩を感じさせられるような改憲案を提示してほしいものである。
このように、9条改憲は、「侵略されたときのためではなく、侵略の片棒をかつぐため」であり、「かつてアメリカに押し付けられた(?)ものを現在のアメリカの意向にあわせる」ものであり、「55年前のものを120年前のものに逆行させる」ものであることが、お分かりいただけるかと思う。
ところで、9条改憲後に具体的に行われる事は何だろうか。当然、軍事力の強化であるから、兵隊が必要になってくる。ところが、いつの時代でも不思議な事だが、そういう時に改憲論者やその家族が積極的に「日本国軍入り」する、という事例はまずない。先述したように、「北朝鮮に攻め込め」などと演説する議員候補はいるが、「その時が来たら自分やその家族・支持者でで義勇兵になって北朝鮮行きの軍艦に乗る・・・」などと言う話はない。
ちなみに、アメリカのブッシュ大統領とその側近は、親の権力などもあり、兵役逃れをしている。日本でも同じ事で、今、改憲を声高に叫んでいる輩や、戦争や改憲をあおっているマスコミ幹部などに「息子(孫)は自衛隊員で、いつでも派兵が決まったら真っ先にイラクに行く事になっている」などという人はどのくらいいるのだろうか。
結局、今回のイラクを始め、前線に駆り出されるのは自衛隊員であり、それだけで足りなくなった時に徴兵されるのは一般市民だ。改憲の主張をしている人やその家族ではないのだ。
というわけで、少なくとも9条改憲は、戦争で儲ける事のできない一般市民にとっては、百害あって一利ないものである。マスコミが煽る「仮想敵国」などより、この改憲のほうがよっぽど、我々の生活をおびやかす脅威と言えるだろう。なんとか「防衛」したいものである。