「民」の最新手法を導入した選挙宣伝

2005/10/04

 先ほど行われた総選挙で、「官から民へ」などという宣伝文句がよく使われた。この言葉には、色々な意味がある。もちろん、その標語を大々的に宣伝した自民党が目論んだのは植民地支配の手法を用いて、自民党政治に対する国民の不満の矛先を「公務員」に向けさせるというものである。そして、その宣伝は見事に効を奏した。
 一方、その表向きの「官から民へ」に隠れて、もう一つの「官から民へ」があった。それは、自民党が今回の選挙でより一層「民」で培われた力を利用した、という事である。
 一般的によく知られているのは、トヨタを筆頭とする財界による徹底的な支援だろう。他に、「広告代理店の活用」も挙げられるようだ。しかし、そのような戦術的なもの以上に、戦略的な次元で、自民党は「民」が生み出した最新かつ効果的な技術を用いて得票を挙げたように思われる。

 その方法は大別すると二つある。一つは仲間内で役割分担を設定し、その中であたかも自分(すなわち自民党)が相手(すなわち有権者)の味方と信じさせて、票を入れさせる、という手法だ。
 小泉政権初期の頃から、「改革」姿勢のために大いに貢献した「抵抗勢力」を、「造反議員」などという名前でさらに印象を強くする。さらにそれに対抗する「刺客」などという候補、さらに「民主党」もその流れに一役を買う。本質的にやろうとしている事はみな一緒なのだが、それをマスコミがいかにも重大な対立であるかのように報道するわけである。
 彼らの「対立」はかなり細かい点であり、本質的な政治姿勢はさほど変わらない。しかし、自民党の戦略にあわせて情報を流すマスコミの報道ばかり見ていると、なかなかそれに気づかない。そして、あたかも「造反議員」などが自分たちの未来を妨害していると誤解してしまい、それと戦う「味方」と思われる自民党の候補者に投票してしまったわけだ。
 もう一つは、「危機をあおる」という手法だ。「今、日本は危機にある。それを治すには改革するよりなく、その改革の全ての原点は郵政民営化だ。そのため、郵政民営化を主張する我々に票を入れてくれ」という論法である。
 落ち着いて考えると、その危機を作ったのは長年の自民党政治なのではないかとか、ここ4年近くやり続けた「改革」の成果は、大企業の収益向上だけであり、国民は収入減少や福祉切捨てなどの「痛み」を押し付けられただけではないか、などと突っ込みどころは満載である。しかしながら、自民党およびその意を受けたマスコミによる一方的な情報にさらされると、ついこれを信じ、「現在の苦境を打破するには『小泉改革』に頼るしかない」などと思ってしまう。その結果、やはりそれが自民党への票へ結びついたわけだ。

 この二つの手法、よくよく見ると、ここ数年で有名になった手法によく似ている。前者の「仲間内で役割を設定して事を運ぶ」というのは「オレオレ詐欺(振り込め詐欺)」だ。電話口で「オレだけど、大変な事になった」という一言に驚かされ、その後出てくる「被害者役」だの「弁護士役」だのの巧妙な演技によって、冷静な判断力を失って金を振り込んでしまのが「オレオレ詐欺(振り込め詐欺)」だ。
 それに対し、「改革者」役が「もし敗れれば改革はストップし、「官主導」「役人天国」が続くことになりかねません。郵政民営化はあらゆる改革につながります。景気対策、社会保障改革、国民負担の軽減につながる「本丸」なのです。」と言い、「造反組」や「刺客」さらには「民主党」などが、それに反対したり賛成したりし、それをまた大々的に報道する。それを見ているうちに、自民党の主張している「改革」で生活が良くなるのでは、と思えてきてしまい、投票してしまう、というわけだ。
 「リフォーム」については、「自宅」を「国家」に置き換えればほぼそのままだ。相違点があるとすれば、「リフォーム詐欺師」が実在しない「住宅の危機」をデッチ挙げてその「解決法」を提示するのに対し、自民党は自らの政治が招いた「危機」を持ち出して、その「解決法」としての「改革」を提示する事くらいだ。一度ひっかかると、その情報を活用して複数の手口で何度も「カモ」をひっかける「リフォーム詐欺」と、2001年の参院選で大勝した時の手法を焼きなおしてこのたびの選挙で使い、「改革」票を集めたあたりなどは、特によく似通っている。

 実際、選挙の勝利後に打ち出した政策と言えば、「増税」だの「改憲」だの、これまでと同じ、国民生活に百害あって一利ない「改革」ばかりである。しかし、「オレオレ」や「リフォーム」がなかなか壊滅しない。同様に、その手法を応用したかのような「改革宣伝」も、このまま使われ続けられるのだろうか。

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