政治業者の利益集団

1.「政治家」と「政治業者」の違い

2003/02/02

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 投票によって選ばれて、行政・立法に従事する人々の事を一般的に「政治家」と言う。この「○○家」というのは、音楽家・建築家・専門家など、一定以上の識見や専門知識を有している人に対して使われる言葉である。しかし、自民党を筆頭とした日本の多くの「政治家」には政治に対する識見や専門知識(※政治で収益を得るための専門知識とは異なる)を有しているとは思えない人が多い。
 一例を挙げれば、ごく最近に小泉首相が国会で発言した「この程度の約束(※公約のこと)を守らなかったというのは大したことではない」などは、「政治」の資質を欠く事を証明した発言だ。
 現在の日本の政治というのは、選挙によって国会議員を選び、多数党が中心となって内閣を組み、首相を選ぶ。その選挙において、候補者は、自らの政策を「公約」という形で有権者に示し、それで票を得る。その「公約」を「この程度の約束」などと表現するのは、ある意味民主政治の否定とまで言える。政治に関する識見や専門知識がある人間とは思えない。つまり「政治」とは言えない。

 そういう人間のために作られた言葉に「政治業者」という言葉がある(「政治屋」という言い方をする場合もある)。要は、「政治」という一連の行為を通じて収益をあげようとしている「業者」であるわけだ。
 よくマスコミなどが「世間一般とは違う永田町の論理」などという言葉で「政治家の行動はおかしい」などと表現する。しかし、この表現はあくまでも彼らが「政治」である事を前提としているから生じるのだ。彼らの行いが「収益事業」だという前提で考えれば、「永田町の論理」などと不思議がる必要はない。
 一番分かりやすい例は「政治資金規制」に関するここ10年の流れである。1980年代末あたりから「リクルート疑獄」「ゼネコン疑惑」など、政権の中枢にいる人間が「金を貰って見返りとして便宜をはかる」という大規模な事件が明るみに出た。そのため、一瞬とはいえ、自民党が政権の座から離れたほどだった。
 その「政治とカネ」の問題に対する彼らが1990年代半ば自ら行った「解決方法」は、政治業者の面目躍如とでも言えるようなものだった。

 まず、批判をそらすために、「企業などの団体から政治家への献金は原則禁止する」とうたった。しかし、それでは政治資金が不足してしまうということで、それの代替として「税金から『政党助成金』を議員数などに応じて政党に支払う」という制度を新たに作った。
 公務員として国庫から給料を得ている国会議員などが、企業から金を貰ってその見返りとしてその企業の便宜を図ることはもちろん許されない。実際それで逮捕者も少なからず出た。それを禁止するのは当然である。その代わりの資金を集めるのは各政党が自ら努力すればいいのである。広く党員を募って党費を集めてもいいし、機関誌を発行して読者を集めてもいい。企業献金が貰えないから政治活動ができない、などという政党は潰れてくれても我々一般納税者は何ら困らないのだ。
 にもかかわらず、「企業献金の代わりが必要」という事で、「政党助成金」なる制度が導入された。議員がいれば自動的に税金から活動資金が支給される、という政治業者にとっては非常に美味しい制度だ。「不況だから国民も痛みを分かち合え」などと言っておきながら、税金から政党活動の助成を受けているのだ。しかも、彼らはこの政党助成金を効率的に受け取るために、要領よく政党を離合集散させたりしている。「政治」であればそんな事をしている暇があれば、国民生活の向上のために何らかの努力をするだろう。このあたりも彼らが「政治業者」たるゆえんである。

 このように「企業献金廃止と引き換えに政党助成金」というだけでもかなりふざけた話だ。しかし、政治業者たちの金に対する執念はこの程度のものではない。
 企業献金の廃止をうたって政治資金規正法を改正したわけだが、いざ成立してみると「全面禁止は5年後」となった。一応、これまでに比べれば「企業から個人への献金は禁止」などと規制が強化された。しかし、抜け道はいくらでもあった。だいたい、実際の禁止を5年後まで延長したのなら、「政党助成金」の支給も5年後まで延長するというのが常識的な考え方だ。しかし、政治業者たちはそんな事はつゆほども考えなかった。業者なのだから「収益」が増える事は画策しても、収益を減らす事など絶対にしないのだ。
 これでせめて5年後に本当に企業献金全面禁止となっていれば、まだ筋が通らないこともなかった。しかし、この制度が出来てから5年後に政治業者たちが行ったことは、政治資金規正法にあった「5年後に企業・団体献金を禁止する」という付則を削除しただけだった。さらに今度は財界の要望もあり、抜け道だらけの政治資金規制すら撤廃しようとしている。
 つまり、「政治家は企業から金をもらって金権政治を行っている」という事から政治不信が生じたのに、終わってみれば「これまで通り企業からは金を貰う。それに加えて税金からも金を貰う」となってしまったのだ。
 ちなみに2002年は317億円もの税金が政党に払われたそうだ。政党助成金は「議員の数」「得票率」などが基準となって政党に配布される。つまり、自民党だと「ムネオハウス」の鈴木宗男議員や「秘書が脱税」の加藤紘一元議員などへの「助成金」も一昨年までは支払われていたわけである(※二人とも昨年に離党)。このような犯罪者などへ割り当てられた税金を堂々と受け取っておきながら、社会保障削減など、納税者へ払う金を減らす政策ばかり行っているのだから、人をバカにした話である。
 以上の事から、「政治家」と呼ばれている人間の多くの実態は「政治業者」であり、自らの収益を至上命題として動いている事はご理解いただけたと思う。次回は、政治業者がどのような「収益活動」を行って利益を上げているかをいくつかの事例をもとに突っ込んで紹介したい。
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