液状化現象に見る、革新知事と保守知事の違い

 東京都知事選が行われています。
 今回は、鳥越俊太郎候補が、野党四党の推す「統一候補」となっています。
 保守都政が続く東京ですが、かつては美濃部亮吉さんによる革新都政が行われていた時期がありました。今回、鳥越さんが都知事になれば、それ以来の「革新都政」と言えるかもしれません。
 美濃部さんが都知事だったのは、自分が小学生の時まででした。そこで、直接的な記憶はありません。
 その美濃部さんの存在感を思わぬところで知ったのは、今から五年前の事でした。

 2011年3月の大震災で、首都圏も大きな被害を受けました。
 自分の住む千葉県も、千葉市美浜区・習志野市・浦安市などの埋立地が、液状化で大変な事になっていました。
 我が家の近くにあった、海岸から2km離れた埋立地ですら、建物が傾いて使用不能になっていたほどでした。
 それをまざまざと見たこともあり、当時、都内の埋立地に住んでいた知人にどれだけの被害があったか気になって尋ねました。すると、「特に被害はなかった」との回答を受け、驚きました。
 ちなみに、そこから数キロしか離れていない、浦安市の知人は、入り口の段差が変わったくらいの被害を受けていました。
 実際、自分の身近な話だけではありません。データで見ても、千葉県の被害棟数が18,674棟に対し、東京都は56棟(一般財団法人「消防防災科学センター」より)と、隣接しているとは思えないくらい、被害に差があります。

東日本大震災における、液状化現象の発生件数の一覧表。千葉と東京の差が顕著です。

東日本大震災における、液状化現象の発生件数の一覧表。千葉と東京の差が顕著です。

 何でこんなに違いがあるのか、まったくもって不思議でした。
 そこで、地震の数カ月後、以前の仕事でお世話になった一級建築士の方とたまたま会ったので尋ねてみました。
 すると即座に、「東京と千葉の行政の違いですよ。東京には美濃部さんがいましたからね」と言われました。
 その時は、立ち話だったので、具体的な違いはわかりませんでした。しかし、この言葉は強く印象に残っており、先日、その方に電話して確認しました。
 すると、「美濃部革新都政は、建物の地盤を安定させるために税金を使いました。一方、ずっと保守県政が続いた千葉は、その地盤の上に建てるものや、建築による利益を知事やその周辺の人の懐に収めるためにお金を使ったのです」と言われました。
 確かに、千葉のような「税金の使い方」をすれば、見た目も派手ですし、政治家やその周辺の人も潤います。しかしながら、あのような地震があると、多くの住民が被害を受けるわけです。
 一方、「地盤の安定に税金を使う」というのは地味です。また、都知事やその周辺も潤いません。しかしながら、いざという時に、これほどまでの違いが出てくるわけです。
 ちなみに、その一級建築士さんは、美濃部都政になる前は、都内から富士山が見えることなどなかった、とも言っていました。

 その、その美濃部元都知事ですが、在任中も今でも、マスコミには大変評判が悪い人です。
 何を発言してもマスコミにもてはやされた、石原元都知事とは180度違うと言ってもいいでしょう。
 その美濃部都政攻撃に一番使われたのは「福祉に力を入れすぎて都政を赤字にした」という宣伝文句です。
 何しろ、当時は、「美濃部知事が老人の医療費を無料化したため、病院が老人の社交場になってしまい、若い人が迷惑している」などという記事がさんざん流されました。
 本当に医療を必要としていない人が、診療費が無料だからと病院を社交場代わりにするのでしょうか。そんな事、自分がもし同じ立場になったら、と数秒間想像すれば分かる事ですが、ありえません。
 しかし、その報道により、老人をはじめとする医療制度の利用者負担増を容認する「世論」が作られました。その結果、制度は改悪され続けました。これは現在も続いています。
 その結果、老人を含めた医療制度は改悪を重ねて自己負担額が増加し、「我慢を続け、ついに病院に行った時は手遅れだった」「病院にも行けず、自宅で孤独死した」などという老人の事例が今では当たり前になってしまいました。
 ついでに、現役世代の病院での自己負担率も一割から三割にあがり、保険料も上がる一方、という現状になっています。

 このような事実を見れば、マスコミが酷評した「革新都政」が実は都民の生活に大きく貢献し、それが保守都政に変わった結果どうなったかが分かるのではないでしょうか。
 そういう事もあり、東京で生まれ育った身としては、なんとか今回の都知事選で鳥越さんが当選し、政治の流れを変えるきっかけを作ってほしいものだと思っています。