「益税」という藁人形

 消費税増税のたびに、商業マスコミなどは「益税」というキャンペーンを行います。
 増税に苦しむ庶民の皆さんを尻目に、消費税増税で不当な利益を挙げている業者がいる、という宣伝です。
 しかしながら、消費税が導入されて30年経ちますが、「益税」で財をなした業者がいたなど、聞いた事がありません。
 あれだけ宣伝されているのに不思議な事もあるものです。一体なぜでしょうか。
 その答えは簡単です。現実に「益税」などは存在し得ないからなのです。

 まず、マスコミの言う「益税」とはなにか、から書いていきます。
 たとえば、毎日新聞の社説には「消費者が払った税の一部が事業者の手元に残る『益税』」と書かれています。
 その、「益税」で得をするとされているのはどんな事業者でしょうか。それは、「非課税業者」と呼ばれる年商1000万円以下の事業者です。彼らは消費税を支払う義務がありません。
 そういった非課税業者が経営する店では、消費者が消費税を払ったのに、税務署に行かず、事業者の利益になっている、と主張しているわけです。
 「非課税業者の店で108円という値札の商品を購入した場合、8円は税金である。しかしながら、非課税業者はその8円を自分の利益にしてしまう。一方で、課税業者は8円を税務署に収める。だから不公平だ」と言いたいようです。
 しかし、この言説は最初から最後まで一つ残らず間違いだらけなのです。

 2014年4月に消費税が増税された当時、筆者はパソコン教室を経営する非課税業者の個人事業主でした。
 主な収入は授業料・サービス料・テキスト販売料などです。一例を挙げると「月謝1万円」という感じです。もちろん、消費税分などとっていませんでした。
 ただ、見積もりなどを出した際に「これは税込みですか?」と尋ねられたら「税込みです」とは答えていました。しかしそれは「別途消費税分をプラスして1万5百円請求する事はないですよ」という意味でしかありませんでした。

 そして、2014年4月に増税されました。しかしながら、消費税増税にあわせて値上げをするなどという事は、一瞬たりとも考えませんでした。
 もちろんこれは筆者だけではありません。当時、筆者が営業していた商店街において、近所の洋菓子屋も、ドリンク剤を買っていた薬屋も、毎月通っていた床屋も、消費税増税に伴う値上げはしていませんでした。つまり、個人商店は殆ど値上げなどしなかったのです。当然、「益税」なども発生しえません。
 ちなみに、自分が経営していたパソコン教室で唯一、値上げをしたのは、仕入元から販売価格を指定されているテキスト類でした。希望小売価格が指定されており、それまで210円で仕入れて525円で売っていたテキストを、216円で仕入れて540円で売るように指示があったからです。
 毎日新聞などによると、これによって、筆者のパソコン教室はテキスト一冊あたりの利益が315円から324円に増え、一冊あたり9円の「益税」を得たことになります。
 しかし、実際問題として、「益」などありませんでした。
 なにしろ、消費税増税とともに、教室運営に必要な電気料金もガス料金をはじめとする諸経費が上がりました。テキスト一冊9円程度の「増益」など、その値上げ分で軽く吹き飛んでお釣りがきてしまいます。
 また、非課税業者だからといって、日常生活における生活費が「非課税」になるわけではありません。その分の出費も増えるわけです。
 売上が減る上に経費も生活費も上がるわけです。当然、経営も生活も苦しくなりました。

 ならばその経費が増える分、値上げすればいいと思う人もいるかもしれません。しかしそんな経営判断はありえませんでした。
 社会全体に増税によっての買い控えが発生しているわけです。そんななか、値上げなどしたら、客離れが生じる事は火を見るより明らかだからです。
 だからこそ、自分のところはもちろん、先述したように洋菓子屋も薬屋も床屋も値上げはできなかったわけです。
 もちろん、値段を据え置いたからといって、客離れが起きなかったわけではありません。なにしろ、消費税増税直後から今に至るまで、個人消費は減り続けているのです。
 必然的に、自分が経営していた教室も、一人あたりの客単価は下がり、新規顧客も明らかに減りました。当然ながら売上も減りました。
 しかたないので、仕入元承認のうえで、テキスト値引きキャンペーンなども行わざるを得ませんでした。これだけで「益税」分なるものもあっさり消し飛んだわけです。
 周りも似たようなものでした。所属していた業者団体において「益税によって儲かった」などと喜んだ非課税業者など一人もいませんでした。
 ちなみに、自分の教室のすぐ近くには100円で今川焼きを売る個人店もありましたが、増税直前の3月10日に廃業してしまいました。消費税増税でやっていけない事を見越したのでしょう。もちろん、「益税」の期待などありえなかったわけです。

 ここまで示した非課税業者の実態を見れば明白なように、非課税業者が消費税増税に便乗して利益を挙げる「益税」なるものは存在しません。
 ではなぜ、政府やマスコミは繰り返し「益税」を話題にし、「益税によって儲ける不届きな業者」などという藁人形を叩くのでしょうか。
 それは、人々の怒りを「益税」に向けさせる事により、増税をする政府、「軽減税率」適用によって増税で損をしない自分たち商業マスコミ、消費税を増税されても困らないどころかむしろ得する財界などを守るためです。
 存在しない「益税」を叩く一方で、一番現実的かつ有効な「増税対策」である、「消費税10%増税を中止する」という多数の声は絶対に記事にしません。
 これらのことからも、「益税」叩きをする商業マスコミなどの「消費税論」が信頼に値しない事は火を見るより明らかだと言わざるを得ません。