「イートイン脱税」というフェイクニュース(前編)

今朝のNHKが「イートイン脱税」というニュースを流しました。
記事には、しかし、持ち帰り用として8%の税率で購入したものを店内で飲食し、2%分の消費税を免れる行為が、“イートイン脱税” としてSNS上などで話題となっています。と書かれていました。
筆者は毎日1時間以上はSNSを見ていますが、そんな事が話題になったのは見たことがありません。
「イートイン脱税」なる言葉がトレンド入りしたのは見たことがありますが、今回も含め、マスコミがニュースにした時だけです。
ちなみに、この「イートイン脱税」が最初の「報道」されたのは、消費税増税当日である10月1日のテレビ朝日でした。

テレビ朝日が増税当日の10月1日に流したニュースです

ここでは、自己申告だと商品持ち帰りを申告していながらイートインで食べるずるい人たちが増えるのではないかと予想されています。そんなずるい人たちの行為がイートイン脱税といわれているのです。(中略)イートイン脱税のようにテイクアウトとして買っておきながらイートインスペースで食べている人がいたとします。それを見つけた時に正義感を出して店員に告げ口するような人のことを正義マンと呼ぶそうです。などと「報道」していました。
しかしながら、記事の日付を見ると、[2019/10/01 20:50]となっていました。増税されてからまだ1日もたっていません。
この記事が事実だとすると、その20時間50分の間に、以下の現象が発生した事になります。

  1. コンビニなどで、「持ち帰り」と申告してイートインで食べる人が現れる事が予想された。
  2. 1の現象を「イートイン脱税」と呼ぶことが、10月1日の夜までに日本社会で一般化された。
  3. それを発見して、指摘する人が現れた。
  4. さらに、3のような行動を行う人を「正義マン」と呼ぶことまで、同様に日本社会で一般化された。
  5. 1~4の現象をテレビ朝日が取材して、ニュース記事としてまとめた。

ちょっと考えればわかりますが、このような事は絶対にありえません。
仮に、1のような現象が本当に発生し、それを見た人がいたとしても、皆が口を揃えて「イートイン脱税」と言うわけがありません。見た人によって異なる呼び方をするでしょう。
にも関わらず、10月1日20時50分の時点で、客観報道を装って「イートイン脱税といわれているのです」などと流したわけです。「語るに落ちる」と言わざるを得ません。
つまり、これはマスコミによる造語である事は明白なのです。
これだけでも十分に問題です。しかし、これらの「イートイン脱税」報道には重大な問題があります。
それは、今の消費税法においては「イートイン脱税」などは絶対に存在し得ないからです。

脱税というのは、本来納めるべき税金を納税しなかった事を言います。
しかし、消費税が導入されて30年経ちましたが、「税込価格」で請求された消費者が「税抜価格」しか払わなかった事で「脱税」として摘発された事例など一件もありません。法的にそんなこと、ありえないからです。
なぜならば、消費税を納税するのは事業者だからであり、消費者ではないからです。
もし、事業者が消費税申告時に、イートイン利用を前提に販売した消費税率10%の商品を、持ち帰りを前提で販売した消費税率8%で販売したと偽れば、「脱税」になるのかもしれません。
しかし、消費者がやっても、脱税になりえないのです。
マスコミが「イートイン脱税」などと煽っている行為がもし本当にあったとしても、それは「店舗が設定した料金の一部を支払わなかった」だけの話でしかありません。
したがって、この消費者の行動に「脱税」という言葉を使うこと事態が、完全に間違っています。
ですから、「イートイン脱税」などという言葉を使った時点で、即座にそれはフェイクニュースであると断言できるのです。

では、なぜTV朝日やNHKは、このような「イートイン脱税」なるフェイクニュースを流すのでしょうか。
もちろん、放送局の裏側を正確に知ることはできません。しかしながら、三つほど推測できる理由があります。
一つは、増税への不満を、増税した安倍政権に向けないための「藁人形」を用意した、という事です。
実は、これまでは、普通に暮らす人が持つ消費税に対する不満をそらすために、別の「藁人形」が存在していました。
それは、「非課税業者は消費税が増税すると利益が増えて不公平だ」という「益税」というものでした。
しかし、今回の消費税増税は、数年後にインボイス方式という、実質的に非課税業者にも課税をするシステムが発動する仕組みになっています。
したがって「益税」が使いづらくなりました。そのため、今回の「軽減税率」導入に伴って発生する現象を利用して、新たに作り上げた藁人形が「イートイン脱税」だったのでは、と思っています。
なお、「益税」なるものについての考察は、このブログに以前掲載しております。合わせて読んでいただければ幸いです。

次に挙げられるのは、消費税増税によって日本で暮らす人が苦しんでいる、という現実を見せようにしているのではないか、という事です。
実際問題、10月の増税から1ヶ月でどんな事が起きているでしょうか。
様々な業種で売上減が報告されています。特に、「軽減税率」の反動で、外食をやっている事業者が大変な目に遭っています。
増税や、「軽減税率」に耐えられない、という理由で9月を持って多くの店が営業をやめました。
一方、消費者も同様です。今回、食品は「軽減税率」の対象ですが、政府が手動して、増税前の値上げを推奨していました。
その結果、食料品の値上げが相次ぎ、また値上げしない代わりに量を減らす、という傾向が相次いでいます。
結局、それが家計に響き、出費が増えて困っている人が続出しています。
しんぶん赤旗や全国商工新聞などにはそれらの現状が詳しく掲載されています。
しかし、それを多くの人に知られてしまうと、安倍自公政権による10%増税というのが、稀代の失政であることや、それによって我々の生活が悪化している、という事実が明るみになってしまいます。
それが明らかになることを、権力に近いマスコミは嫌がります。
そのため、これらの深刻さに比べれば、些事にすぎない「店内で食べれば550円になる商品を持ち帰りと言って540円の商品を買い、それをイートインで食べて10円を払わずにすませた」などという行為を大きく報じているのだろう、と疑わざるを得ません。

三つ目の理由については、長くなるので、次回にまわします。