有効求人倍率の正体・前篇

 安倍首相の発言で、判で押したように出てくるものに「有効求人倍率が1を超え続けている。したがって雇用も景気も良くなっている。これがアベノミクスの効果だ。」というものがあります。
 実質賃金や消費支出など、ほとんどの国民において、経済指標が悪化し続けています。そんななか、極めて少ない「改善」されている数字なので、ついつい使いたくなるのでしょう。
 しかしながら、果たして、この「有効求人倍率の上昇」によって、景気や雇用が良くなったと言えるのでしょうか。
 結論から言うと、そのような事はありません。むしろ現在の有効求人倍率上昇は、「雇用の悪化」「景気の悪化」ゆえに生じていると考えるほうが妥当なのです。

 もちろん、景気が良くなったから有効求人倍率が上がった、という事例はありました。
 たとえば、1990年代のバブル華やかなりし頃はそうでした。所詮は泡でしたが、確かに世の中に多くのお金がまわり、消費が増えました。その結果、様々なサービス業が誕生しました。
 それを運営して利益を上げるためには人材が必要です。そのため、各産業は時給や待遇を釣り上げて、人を集めました。
 しかし、これはあくまでも、「景気が良くなったから有効求人倍率が上がった」という話です。だからと言って、その逆である「有効求人倍率が上がったのだから景気は良くなった」が成立するわけではありません。

現在の有効求人倍率の高さはバブル期と同じになりましたが、ぞの中身は全く違います。

現在の有効求人倍率の高さはバブル期と同じになりましたが、ぞの中身は全く違います。

 これは、今の有効求人倍率上昇の中身を見れば分かります。
 確かに有効求人倍率は上がっています。しかしながら、かつてと違い、時給も労働条件も全然上がりません。
流通最大手のセブン-イレブンが最賃ギリギリの時給でアルバイトを募集し、しかも明らかに違法である「15分未満の賃金切り捨て」を全社的に行っている、というのが現状です。
 もちろん、他の会社も同様です。全国的に名前の知られた企業が、かなり重要な業務を最賃ギリギリの時給でアルバイトや契約社員として募集をし続けています。
 募集は続けているのですが、その店舗で、従業員が溢れている、などという事はありません。むしろ、人が足りないのでは、と思える環境で、忙しく働かされています。
 この事は、正社員の有効求人倍率が高い職種は、建築・土木技術者や保健師・助産師などの専門職・技術職か、介護や保安・建設食などの低賃金で劣悪な職種である事からも分かります。
 ちなみに、事務的職業の有効求人倍率は0.32バイト極めて低くなっています。

 これらの現実を見れば、現在の「有効求人倍率の増加」の原因が何であるかは明白です。それは、「ブラック企業」「ブラックバイト」の激増なのです。
 低賃金の非正規労働者を増やせば増やすほど、会社の利益は上がります。一方、正社員においても、「固定残業制」「裁量労働制」「名ばかり管理職」などを用いて「合法的」に低賃金長時間労働をさせ、さらには「サービス残業」というタダ働きまでさせます。
 このように、労働の低賃金化・不安定化並びに労働強化は企業にとっては利潤を簡単に利潤を生み出せます。そのため、多くの企業がこの手法を取り入れました。
 しかしこれは、働く側にとっては「ブラック化」でしかありません。

 ただ、これを行うと、「副作用」があります。それは、働く人がどんどん辞める、という事です。賃金が低くて仕事がきつく、雇用は不安定なのに責任は重い、などという過酷な環境だから当然でしょう。
 そのため、不足した「低賃金労働者」を補充するために、企業は常に人材を募集します。
 その結果、有効求人倍率が上がるのです。
 つまり、「ブラック労働」を強いる→耐え切れなくなった離職者が増える→再び低条件で人を集める…が繰り返されたために、有効求人倍率が上がっているだけの話なのです。
 つまり、現在の有効求人倍率の上昇は、企業の「ブラック化」の進み具合を表す指標でしかないのです。にも関わらず、「有効求人倍率が高いのだから景気や雇用は上昇している」などと言うのは、事実とかけはなれた宣伝だとしか言いようがありません。

なお、後篇では、より具体的な事例を上げて、「景気・雇用が悪化しているのに有効求人倍率が上がる仕組み」について記載します。