「民営化」するとサービス向上?

 今から30数年前、政財界とマスコミは、「民営化万能論」を宣伝していました。
 よく使われたのは「経済は一流、政治は三流」という宣伝文句でした。
 世界2位の経済大国になったのだから「経済(=私企業)は一流」だというわけです。
 一方、当時、徹底的に報道されたロッキード事件などの不祥事から「政治(=官公庁)は三流」と定義しました。
 そして、「民間企業は優秀で官公庁はダメなのだから、国有企業などを民営化すれば改善される」「公務員は利潤追求する必要がないからサービスが悪い。民営化することによりサービスは向上する」という宣伝がなされました。
 そこで作られた「世論」を後押しにして、国鉄・電電公社・専売公社などの「民営化」が進められたわけです。そして、それぞれ、JR・NTT・JTといった「民営企業」になったわけです。
 この論法はいまだに各所で使われています。最近だと、大阪での「市営交通民営化論」が有名です。他にも、各自治体で、「公的機関に民間企業を導入」が進められています。
 しかし、本当に「民営化」はサービス向上を招くのでしょうか。

 一番分かりやすい例は国鉄とJRの違いでしょう。
 確かに、新幹線が増えたり、東京や大阪の都心部に新線ができるなど、便利になった点はあります。しかしながら、別にそのような事は、国鉄時代にもやっていました。
 一方で、国鉄時代には行われなかった「サービス切り捨て」がJRになって行われるようになった例があります。
 国鉄として作られた新幹線(東京ー博多・盛岡・新潟)において、並行在来線は全て国鉄として残されました。
 しかしながら、JRになってから開通・延長された新幹線では、極めて高い確率で、並行在来線の第三セクター化が行われています。
 その結果、新幹線停車駅を除いた沿線住民は、新幹線開通により、鉄道の利便性が悪化しています。
 また、「民営化」にあたり、多くのローカル線が廃止されました。それに加え、代替交通機関がないからと存続された路線でも、一度自然災害で運休になると、復旧工事を行わず、そのまま廃線になったり長期運休のままになったりする事例が一般化しています。
 いずれも理由は明白で、「そうしたほうが、JRの利潤が増えるから」です。
 NTTも同様で、「利潤追求」のために、それまで無料だった番号案内を有料化しました。また、胡散臭い会社と代理店契約をし、不必要なサービスを売りつけられる事例が多発するようになりました。

 実際に利用者として企業のサービスを普通に受ければ、「利潤追求をする民間企業のほうがサービスがいい」などという事がいかに非現実的かという事はわかります。
 たとえば三菱自動車の問題が発生した理由は「不正をしたほうが儲かるから」の一言に尽きるわけです。
 さらに、大手流通企業の店舗は、本部が採算があわないと判断したらあっさり撤退します。既に、出店に伴い、地元の個人商店などは壊滅状態になっているため、地域の人々の多くは「買い物難民」になってしまいます。
 いずれも、「利潤を追及した結果」として生じた事です。このことからも、「私企業は利潤を追求するから公務よりサービスが良くなる」が事実に反している事は明白でしょう。

 国や地方自治体の提供するサービスには、収益が出ないものも多々あります。
 それを無視して、「民営化万能論」とでもいう手法で公的サービスを変えてしまった結果、さまざまなひずみが出ている、というのが現状です。
 もちろん、公務サービスや国営・公営事業に改善すべき点がある事は確かです。しかし、それが「民営化」によってのみ解決できるものではない、というのは、これまでの事例から明白なのではないでしょうか。
 にも関わらず、「民営化万能論」的な発想で、公共サービスを私企業に担わせる事に熱心な政治が行われています。その目的が住民サービスの向上でなく、別の所にある可能性が高いのでは、と思っています。