「自民党に勝てばいい論」に欠落しているもの

 ここ数年、選挙のたびに出てくる主張として「自民党を倒す、という事が最優先課題である。したがって、自民党を支持しない人は民主党に投票すべきだ。他の野党候補が立候補するのは、むしろ自民党を利する行為である」というものがあります。この手の主張は根強く存在します。中には国境を越え、アメリカの大統領選挙で二大政党に与せずに出陣し続けるラルフ=ネーダー氏を痛烈に批判する日本人すらいるほどです。
 確かに自民党政府による政策にはろくなものがありません。国会では強行採決を連発して「国民投票法」成立や、教育基本法改悪などを行っています。一方、首相を初めとする閣僚の言動も呆れるものばかり。「公の場で特定の病人を差別する発言をしてはいけない」という社会人にとっての最低限の常識をわきまえない輩が、主要な地位の閣僚であり続けるほどの品質の低さです。
 この自民党の異常ぶりを見ていると、冒頭の宣伝に影響され、「ならば民主党に票を集めて、自民党をひきずりおろすべきだ」と思う人もいるかもしれません。
 しかしながら、この主張には、ほんの十数年前に実際に発生した事実を意図的に無視する、という重大な問題点があります。

 1980年末から1990年代初頭にかけ、当時の自民党政府の要人はさまざまな疑惑にまみれ、自民党への評価は大きく下がっていました。そんな中、自民党の実力者でありながら、党内抗争などがあって離党した、現民主党党首の小沢氏などの動きもあり、「非自民」の細川内閣が誕生し、自民党は結党以来初めて、政権の座から退きました。
 しかしながら、細川内閣、さらにはそれを継承した「非自民」の羽田内閣の行った政治、というのはどのようなものだったでしょうか。この時代の内閣の「成果」として挙げられるものは、「わざわざ税金から政党の活動費を支払う政党助成金」「自民党の長年の悲願の一つであった衆院での小選挙区制」「福祉目的という建前での消費税増税の道筋をひいた」といったものです。
 結局、この「非自民政権」の成し遂げたものは、自民党の目指していた政策を実行した事と、自民党政府に対する国民の不満の行き先を、自民党と同じ中身を持つ政治勢力に向けさせた、という二点でした。
 そして、かつての「非自民」の中心人物であった小沢氏率いる民主党は、党所属議員の「有志」が自民党議員と仲良くアメリカの新聞に「従軍慰安婦否定広告」を出したりしています。中には、自民党の閣僚ですら「南京ではなんらかの虐殺はあった」と答弁するのに対し、「そのような物は一切なかったと認めろ」と国会質問する民主党議員もいます。
 もちろん、今回は参議院選挙ですから、仮に民主党が勝っても政権交代は行われません。とはいえ、「反自民票を民主に結集」などという主張をする以上、民主党が政権を取ったらどのような事が行われるか、について過去の実績を振り返りながら考えるのは重要です。しかしながら、そのような過去および現在の民主党議員の実績を考察をした上で、「自民党を支持しない人は全て民主党に投票すべきだ」などと主張する人はまず見たことがありません。

 かつての「非自民内閣」の実績、および現在の民主党の実績を考えれば、「自民党政権から民主党政権」というのが、「よりまし」などという安易な言葉で語れるものではない、という事が分かります。加えて言うと、そのような「自民党が失政を繰り返して国民の不満が高まった際に、その『受け皿』を民主党が担う」という事が、どのような勢力にとって望ましいのか、というのも考えて見ると面白いかと思っています。

「自民党に勝てばいい論」に欠落しているもの」への4件のフィードバック

  1. 「よりマシ」じゃなくて「より良い」投票行動のために

    新自由主義的自民党政権に心底怒りを感じる方に。真正面から痛打を喰らわす投票行動のために。決して近視眼的投票行動で怒りの痛打を空振り(ヘタするとカウンターも…

  2. PPFVさんとこから来ました、ニッパチと言います。
    リンクを貼らせていただきます。
    すばらしい内容、今後もご健闘ください。

  3. ニッパチ 様
    はじめまして。コメントならびにお言葉、有り難うございます。
    ブログ拝見しました。いろいろと勉強になりました。
    今後ともよろしくお願いいたします。

  4. 「9条世界会議」の呼びかけ

     9条世界会議のサイトが出来たようです。
      9条世界会議  
     私たちは、アジアや世界の市民・NGOと交流する中で、戦争の放棄と軍隊の不保持を…

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