政権公約における改憲の位置付け

 昔、よく健康食品の格安販売をうたうチラシがポストに入っていました。紙面の9割がそのような格安販売で占められており、その片隅に「高級羽毛布団」の写真が小さく載っています。そして、チラシを見て会場に来た人を安売りやプレゼントで催眠状態みたいな精神状況にします。それを利用して布団を高値で売りつけるわけです。いわゆる催眠商法というやつです。
 惹きつけるための心地よい情報の片隅に、真の商売目的をさりげなくまぜておくという、この巧妙なチラシと似たようなものを先日見ました。それは自民党の政権公約です。

 冒頭で「改革」の最重要課題として郵政民営化を大々的に宣伝し、続いて本文でも「テーマ1」として、「日本の改革」を挙げてます。当然ながら、最初の項目は「郵政民営化」です。
 2番目には「日本の行政を変える」として公務員制度や財政赤字・社会保障などについて書いています。「行政のスリム化」などとして、公務員の人数や賃金の削減について大きく書き、さらに財政赤字の削減や社会保障の「改革」にもかなりの行数を割いています。
 3番目は「日本の社会を変える」として「女性の坑内労働に関する規制の緩和」など。これはあまり字数はありません。
 そして、この「テーマ1」の4番目に出てくるのが「日本の基本を変える」です。ここには憲法や教育基本法を「改正」する事について書かれています。しかし、憲法については、17年11月15日までに自民党憲法草案を策定し、公表する。新憲法制定のための「日本国憲法改国民投票法案」及び「国会法の一部改正案」の早期制定を目指すと、わずか2行で片付けています。しかも、「9条をどうする」などと言った、具体的な改憲内容はもちろん、改憲の基本理念についてすら何一つ触れていません。
 行数はわずか2行。これは後で出てくる「沖縄科学技術大学院大学構想の実現」だの「観光立国の実現」などと同じ行数です。

 そこから15ページ離れた「テーマ5 世界の中の日本」というところでは、「『防衛体制』の整備や、『日米安保』の強化などを推進します」など、対米従属やそれにともなった自衛隊の強化などを繰り返し書いています。それと、自民党が既に発表している憲法「改正」案などを組み合わせて考えれば、その11月15日に発表する予定の「憲法草案」において、憲法9条をどのようにするつもりなのかは明白でしょう。
 にも関わらず、この「政権公約」における文言のどこにも「憲法9条をどうするか」などについての具体的な記述はありません。
 今回の郵政問題もある程度重要ではあります。しかし、最高法規である憲法のしかも三大理念の一つとされている「平和主義」の根幹に関わる部分の改廃とでは、次元が違いすぎます。にも関わらず、それを郵政問題の添え物以下のような扱いで「公約」に混ぜ込んでいるわけです。そして、選挙宣伝でも「郵政」の事ばかり。マスコミもそれにあわせた報道をしています。

 マスコミなどによって作られた「郵政民営化は日本を良くする改革」や「公務員は私企業の従業員より優遇されているから削減・減給すべき」というような「お得な健康食品」をちりばめておいて、その片隅に「憲法改正」が小さく書かれているわけです。
 本来、自民党にとっても「憲法改正」は立党以来の党是のはずです。仮に今回の総選挙で大敗したら、その党是が実現できない可能性すらあります。ならば、表紙に大きく「改憲」をかかげ、政権公約でも大きく紙面を割いて宣伝するのが普通のはずです。
 逆に言えば、そのようにせずに、僅かな行数でさほど目立たない所に置くあたり、実際に憲法問題が「争点」となったら有権者がどのような反応をするかが自民党には分かっているのでしょう。つまるところ、催眠商法で本来の目的である高額な羽毛布団を小さく宣伝すのと同じわけです。
 催眠商法の場合、8日間以内であればクーリングオフができるそうです。しかしながら、自民党の改憲という「商品」は一度「買って」しまうと、なかなかクーリングオフはできません。それを考えると、催眠商法よりも迷惑な「商法」とも言えるでしょう。