「アベノミクス」の成果を粉飾する新聞

 今日の毎日新聞一面に「アベノミクスで日本経済はどこまで回復したか」という表が掲載されました。

毎日新聞2016年6月2日付一面に掲載された表

毎日新聞2016年6月2日付一面に掲載された表


 パッと見ると、右肩上がりの赤い矢印が多く、表のタイトルのように、「アベノミクス」で日本の経済が良くなったかのように思ってしまいます。
 しかし、よく見ると、この表にはきわめて恣意的な「工夫」が二つほどなされている事がわかります。

 まずは、指標として使った数値です。これらは、安倍首相がよく持ち出しているものばかりです。
 しかしながら、その中には、「日本経済の回復」と関係がないものが含まれています。
 たとえば二番目の「円相場」です。確かに、円安になって、輸出企業は儲かりました。しかしその一方、原材料を輸入している業界は深刻な打撃を受けています。それを見れば分かるように、「円安=経済回復」など成り立ちません。
 他にも、一部の投資家にしか関係ない「日経平均株価」だの、景気の指標として使うのに大きな疑問がある「有効求人倍率」など、安倍政権にとって都合のいい指標ばかりです。

 その一方で、安倍首相にとって都合の悪い指標は載せません。その最たる例は実質賃金でしょう。この数値は、安倍首相就任後、4年連続で下がり続けています。
 他にも、非正規雇用の拡大など、現実を示す数値はいくらでもあるのに、それは載せないのです。
 だいたい、この表のように「アベノミクスが成功」していると言うのなら、なぜ、毎日新聞が自ら行なった世論調査で七割以上もの人が「アベノミクスによる景気回復を実感していない(=景気がいいとは思わない)」と回答するのでしょうか。

 そして、もう一つの問題点は、この表の「起点」です。
 表題が「アベノミクスで日本経済はどこまで回復したか」である以上、起点とすべきところは、安倍内閣が発足した2012年12月とするのが当然です。
 ところが、よくよく見ると、起点となる指標は「リーマン・ショック直後の最悪期」となっています。リーマンショックが発生したのは2008年秋でした。「最悪期」が何年何月なのかは記載されていないのでわかりません。
 しかし、いずれにせよ、民主党政権はその時期に発足しています。つまり、この「表」の左半分に並ぶ右肩上がりの赤い矢印は、「民主党政権の成果と『アベノミクス』を合算した経済回復」なのです。

 したがって、この表で「アベノミクスの成果」と言えるのは、表の右半分である2014年11月から現在までの推移の部分だけです。
 そこの部分を見ると、右下がりや横ばいが目立ちます。しかも、この表で「横ばい」とされている消費支出ですが、1年半で2兆円も減ってしまったのです。ちなみに、消費支出が2年連続で下がったのは、ここ20年で初めての事です。

しんぶん赤旗2016年6月3日付けに掲載された個人消費の推移表です・追記しました

しんぶん赤旗2016年6月3日付けに掲載された個人消費の推移表です・追記しました


 これを「横ばい」と表記するのが適切とは思えません。
 また、この期間で唯一右肩上がりとなっている「有効求人倍率」ですが、これが本当に「景気回復」と連動しているかは極めて疑わしいものがあります。なお、この詳細については、こちらをご参照願います。

 つまり、この表は、極めて恣意的な指標を集めたうえに、リーマン後の民主党政権による成果と「アベノミクス」をごた混ぜにして「右肩上がり」を演出しているのです。
 そのあたりを考慮すれば、この表につける題名は「アベノミクスで日本経済はどこまで悪化したか」にするのが適切でしょう。
 にも関わらず、さまざまな「悪知恵」を使い、パッとみると「アベノミクスで日本経済が回復した」という、読者に事実と正反対の認識をさせる、という出来栄えになっているわけです。
 この手法は、大日本帝国軍が連戦連敗のなか、事実と正反対の「大本営発表」を流し、臣民の「戦意高揚」を行なった70数年前と全く同じです。
 そこまで「先祖がえり」するほど権力におもねった新聞になったのだな、とつくづく思いました。