安倍首相にとっての「証拠」

 安倍首相の従軍慰安婦は狭義の意味での「強制」はなかったなる発言をしたそうです。何でも、「官憲が家に押し入って人さらいのごとく連れて行くという強制性はなかった」。首相は5日の参院予算委員会で慰安婦の強制連行を事実上否定した。慰安婦狩りなどの証言も「でっち上げ」と切り捨てた。だそうです。
 被害者本人や当時の関係者の証言は「でっち上げ」なわけです。この調子なら、文書はもちろん、証拠写真だの映像だのがあっても、「ねつ造」扱いするのでしょう。つまり「狭義の意味での強制連行」に関する証拠は、頭から否定するわけです。この論法なら、確かに「狭義の意味での強制連行」の証拠は絶対存在しません。もちろん、これは安倍首相の頭の中でしか通用しない論法ですが。
 心理状態の水準としては、12年ほど前に都心で毒ガステロを起こした輩を「教祖」として絶対的に帰依している信者や、いまだにヒトラーを信奉している一部のドイツ人と大して変わりがないと言えるでしょう。

 さて、毎度の事ですが、報道などを見ると、この発言に対する反響は、かつての日本侵略被害国やアメリカがこの発言を批判している、みたいなものしかありません。もちろん、このような発言が、諸外国の不興を買うのは確かです。しかし、これは果たしてそのような「外交問題」でしかないと考えていいのでしょうか。
 とにかく、自分にとって認めたくない事実は全て「でっち上げ」とした上で「証拠がない」などと言うわけです。そのような人物やその同類にとって、国民の現状というのはどのように認識されるのでしょうか。
 いくら格差が広がって、「ワーキングプア」が増えようと、生活保護申請を拒否されて餓死する人が出ようと、数の減った正社員の多くが給与が減る中で長時間労働にさらされようと、自民党政府・財界はそれを重大な問題として認識することはありません。「ワーキングプア」は「努力不足」で、生活保護申請者は「人権メタボリック」で、長時間労働の会社員は「自己管理ができていない」と、「切り捨て」られるだけです。
 今の日本でそのような事が現実に起きているにも関わらず、是正するどころか、そのような都合の悪い存在は無視して、より一層、格差の拡大するような政治を行っているわけです。
 そのあたりを考えると、今回問題になった安倍発言に見られる姿勢は、アジアでかつて日本軍の性被害にあった人だけに向けられているものではない、という事が分かるのではないでしょうか。都合の悪い存在は無視するし、事実をつきつけられても認めないわけです。その点において、かつての「従軍慰安婦」も今の富まない層の日本人も、安倍首相にとっての認識はさほど変わりはありません。

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