残業代ゼロ法案と「選挙の争点」

 残業代ゼロ法案こと「ホワイトカラー・エグゼンプション」が見送りになりました。といっても、「実際に深く検討したところ、これでは対象となる労働者の生活と健康に悪影響をおよぼし、不幸にするから」ではありません。最大の理由は「反対が多く、7月の参院選に影響を及ぼす可能性があるから」です。
 つまり、この「残業代ゼロ法案」は実施すると国民に迷惑がかかるものであり、選挙での得票に悪影響を及ぼす、と自民党政府が認めたわけです。まあ、あれだけ大手企業が「サービス残業」という名の「ただ働き」を社員に強制している時代に、「働き方によっては、短時間労働ですむ」などと言っても、よほどの物好きでない限り信じないのは当然でしょう。
 それはいいのですが、これで「残業代ゼロ法案」は消滅したと考えていいのでしょうか。ここで注意すべき事は「撤回」の最大の理由です。参院選に影響があるから撤回した、というのは参院選が終わったら、再び実現に向けて動く可能性が高い、という事です。
 「選挙前には隠しておいて、選挙が終わった後に作られた、国民を損させる法律」は過去にもいくらでもあります。

 ところが、この「撤回」によって、「残業代ゼロ法案」が夏の参院選の「争点」になる事はなくなりました。自民党政府が参院選後に再び実現に向けて動く可能性は極めて高いのですが、商業マスコミは参院選の際に「争点は残業代ゼロ法案」とは報じないでしょう。場合によっては、かつて何度もやったように、選挙後に「自民党の争点そらしが功を奏した」などと、他人事のように「勝因分析」をする可能性すらあります。
 こうやって考えていくと、いったい選挙の「争点」を決める権利は誰にあるのか、という疑問につきあたります。
 もちろん、実際に政治を行うのは政党に所属する閣僚なり議員です。そしてその様子を報じるのはマスコミです。しかし、だからと言って「争点を決める権利」までは彼らにありません。
 「争点」になりうるのは、これまで行ってきた事および、これから行われると思われる政治の全てです。そのうち、その中から投票者は、自分の生命と生活にとって重要なものを選んで投票の基準とします。その中で多くの人々の判断基準となったものが「争点」になるのが本来の姿でしょう。何しろ、日本国の主権を持っているのは自民党政府でも商業マスコミでもなく、国民なのですから。
 したがって、いくら自民党が「参院選のために撤回」しようと、「残業代ゼロ法案」は会社勤めをしている人にとっては「争点」であり続けるわけです。なにしろ、自民党政府も財界も「残業代ゼロ法案」の根源にある「働いている人から金と時間を絞って、それを自らの利益にする」という思想は何ら変えていません。少々形を変えて、再度成立を目指そうとするのは自明の理と言えそうです。
 今から7月の参院選の話をするのも気が早いですが、この「残業代ゼロ法案」とそれを「参院選の争点にしたくないから、という理由で一時的に引っ込めた」という事は、「撤回」することのできない事実です。

残業代ゼロ法案と「選挙の争点」」への1件のフィードバック

コメントは停止中です。