「脅威」と「国際貢献」で儲ける人々

 一連の防衛省がらみの問題発覚は止まるところを知りません。今回、新たに「省ぐるみの裏金作成」問題が浮上しました。他にも様々な問題が判明しており、逮捕された前次官氏や、大きく報道されている軍需企業だけに止まる問題でないことは明らかです。
 日本のみならず、アメリカの軍需産業も莫大な利益を挙げ、その見返りとして、防衛省関係者が個人的に利益供与を受け、さらに省ぐるみでも裏金作りをやって収益を得ていたわけです。言うまでもないことですが、これらの利益はいずれも、国民がおさめた税金が元になっています。
 軍事関係の事になると、二言目には「国益」という言葉が使われていました。しかし、実際のところ、その「国」という言葉は自分たち個人の懐を意味していたようです。

 このように、税金をいかに自分たちの利益とするために活躍している軍事産業・自民党政治業者・防衛官僚は、皆をあわせて「軍需業者」と言うべき存在です。では、それらの軍需業者がより一層の収益を挙げるためには、どのような事をすればいいのでしょうか。
 彼らの収益は、軍需物資の購入という形で作られます。そのためには、軍事予算を維持・拡大する必要があります。ただ、それらを行う際には、軍事予算に理由付をする必要があります。
 1990年代までは、隣接する一党独裁の社会主義国家であり、第二次大戦敗戦のどさくさで北方領土などを奪い取った「仮想敵国」・ソ連の脅威を煽っていればなんとかなりました。「かつて日本領を奪った独裁大国がまた攻めてくる」という口実で、軍備を拡大し、同時に高価な兵器を購入することにより、利益を得ていたわけです。
 しかし、その旧ソ連が資本主義国家になっては、その脅威は使えません。代わりに出てきたのは、拉致国家である北朝鮮ですが、いくらなんでも、本州より狭い国を使ってソ連と同等の脅威を煽るのは無理がありすぎます。また、「仮想敵国」としては一党独裁の社会主義国家である中国もありますが、あれだけ経済的に密接な関係になり、大量の観光客が行き来するような関係になっている以上、かつてのソ連と同様に脅威を煽ることは難しいものがあります。
 ところが、軍需業者にとっては幸いな事に、ソ連の崩壊の直前に湾岸戦争が発生しました。そこで、「世界のために、日本も軍事貢献すべきだ」と別の方向から煽るようになりました。そして、なしくずしに「国際貢献」の範囲が拡大し、今では自衛隊は海外に派兵され、アメリカ軍の後方支援を行っています。その、自衛隊が「支援」した物資により、イラクやアフガニスタンなどで、多くの一般市民が殺されているわけです。
 いくら自衛隊が中東で給油をしたところで、日本国民はもちろん、「同盟国」アメリカの一般国民の安全にすら何ら役には立ちません。しかしながら、日米の軍需業者にとってはこれは大いに役立つことなのです。
 こうやって「脅威」や「国際貢献」という言葉は、軍需業者が税金を自分たちの収益にするために役立ってきました。

 もちろん、これは今に始まった事ではありません。当ブログで何度か言及したように、日本が大敗したはずの第二次大戦ですが、国民に比べて政治業者の被害は軽微なものでした。ごく一部は死刑になったり自殺したりしましたが、ほとんどはそのままアメリカの下につくことにより、権力中枢に存在する事ができました。
 軍需産業はもちろん、解体されたとされる旧日本軍も同様でした。敗戦後10年も経たずに設立された自衛隊には、旧日本軍の幹部が横滑りしました。また、旧日本軍の施設がそのまま自衛隊の施設になった例も少なくありません。
 結局、多くの国民が兵士としてあるいは空襲などで死んだにも関わらず、戦争を始めた側は、さほど変わっていなかったわけです。そして、その時得た利益もそのまま残りました。ついでにいうと、あれだけ虚報を流し続け、国民の死を煽った新聞社も、ほとんどがそのままの形で戦後も残りました。
 だからこそ、当時利益を得た層を引き継ぐ、現在の自民党政府を中心とした政・財・官・報といった勢力は、かつての戦争を正当化しようとしているわけです。なにしろ、もう一度戦争を行えば、再び大きな収益が期待できます。もちろん、そうなれば多くの国民が死んだり苦しんだりしますが、そんな事は安全な場所にいる彼らおよび彼らの利益にとっては、些細な事です。
 しばらく前に、「原爆はしかたない」と発言し、現在、防衛疑惑で話題になったいる元大臣がいます。発言当時、彼は「しかたない」について苦しい言い訳をしていました。今振り返ると、あれが「軍需業者たちの儲けのためにはしかたない」という意図だった事がよく分かります。

 いくら「脅威」だの「国際貢献」だのと大袈裟な言葉を使ったところで、軍事にはカネが動く、というのは厳然たる事実です。そして今回、より明白に、その軍事のために使われるカネが、どのような形で「利益」になるかが分かったわけです。
 そして、彼らがより効率的に高利益を挙げるために、何を求めているかも明白です。そして同時に、そのように彼らが得すればするほど、国民は損する、というのが70年前に起きた事でした。そして、その仕組みは、現在も何ら変わってはいません。