自民党綱領とコロナ補償の関係

 コロナ禍とそれに伴う緊急事態宣言により、様々な自粛要請が行われました。いくつかの業種は名指しで要請されて売上ゼロになりました。
 また、居酒屋などは、重要な利益源である夜の酒類提供ができなくなり、大幅な売上減となりました。  多くの中小業者の営業と暮らしが危機に瀕しています。

 ところが、ごく一部の自治体を除き、その休業に対する補償は遅々として進んでいません。
 自公政権は、様々な「検討案」を発表しましたが、その内容は極めて複雑で、補償対象が誰なのかもわかりません。
 さらに、複雑な「線引き」を行い、支給対象者をいかに減らすか、という作業ばかり行っています。
 さらに、口では「スピード感をもって」などと言いますが、実際には支給は遅々として進みません。
 あれだけ住民が大きな声を挙げて決まった「一人10万円支給」も、支払いは6月です。決まったのは緊急事態宣言延長の前なのですから、あまりにも遅すぎます。しかも、これでは全然足りません。
 その結果、既に廃業・閉店が続出し、自ら命を断った経営者すらいます。

 その一方で、「一世帯二枚の布マスク配布」だの「大企業を対照とした1000億円支給」だのは早々に決まりました。
 実際に収入が減って困っている中小業者・フリーランス・非正規雇用者に対する補償の少なさ・遅さと対照的です。

 いったい、その理由は何なのでしょうか。実は、それは、安倍首相を始めとするほとんどの閣僚が自民党員である事にあります。
 どの政党にも、その党の方針・主義主張などを記した「綱領」というものがあります。
 自民党員は、自民党の綱領に沿って政治を行っています。(※リンク先ページの「立党55年」の右にある「+」を押すと、自民党の現綱領が表示されます)
 その綱領を読めば、この補償の遅さ・少なさの原因がすぐにわかります。

 自民党の綱領は、ワードにすればA4で2ページという簡潔なものとなっています。
 その短い文章のなかで、「自立」という文字が6回も出てきます。
 それを箇条書きで抜き出してみました。

  1. 我々は元来、勤勉を美徳とし、他人に頼らず自立を誇りとする国民である
  2. 我々が護り続けてきた自由(リベラリズム)とは、(中略)自立した個人の義務と創意工夫、自由な選択、他への尊重と寛容、共助の精神からなる自由である
  3. 全国民の努力により生み出された国民総生産を、与党のみの独善的判断で国民生活に再配分し、結果として国民の自立心を損なう社会主義的政策は採らない。
  4. 真面目に努力した、また努力する自立した納税者の立場に立ち、「新しい日本」を目指して、新しい自民党として、国民とともに安心感のある政治を通じ、現在と未来を安心できるものとしたい。
  5. 自助自立する個人を尊重し、その条件を整えるとともに、共助・公助する仕組を充実する
  6. 家族、地域社会、国への帰属意識を持ち、自立し、共助する国民

 「自立した国民」だけが自民党の政治で安心して暮らせる、と「これでもか」という感じで繰り返しながら主張しています。
 他人に頼っては駄目ですし、真面目に努力して税金を払えなくても駄目です。
 基本は自助であり、続いて共助、公助は三の次、というわけです。
 特に凄いのは三番目で、「国民の自立心を損なうような再配分はしない」とまで明言しています。
 その結果が、第二次安倍内閣による格差拡大だったわけです。そして、首相の友達が経営する学園だの、首相夫人が名誉校長だった小学校への過剰な「再配分」をしたわけです。

 ここまでお読みいただければわかると思います。
 自民党にとって、数ヶ月の営業自粛要請の結果、経営が立ち行かなくなった中小業者や、収入が減った非正規社員・学生アルバイト・フリーランサーなどは「自立した国民」ではないのです。
 一時期、「上級国民」という言葉が流行しました。この自民党綱領を見れば、「自立した国民=上級国民」であり、それ以外の「自立していない下級国民」の事など、歯牙にもかけていない事がよくわかります。
 ちなみに、彼らが実際に行っている政治を見れば、最も自立している国民(=最上級国民)は、先祖代々の地盤・看板・財産により、政治家の身分を保証されている自分たちや、大富裕層・大企業である事は明白です。
 それ以外の「自立していない国民」を助けるのに税金を使いたくない、「自助」「共助」だけで頑張れ、それができないなら知ったことではない、という、自民党綱領に基づいた政治が、現在進行形で行われているのです。
 コロナ問題に関して、防疫についても、経済補償についても、政府の対応が極めて遅く、また補償額が少ないと、多くの方が思っています。
 その理由が、この自民党綱領なのです。

 今の政治を続けたら、新型コロナウイルスだけでなく、政治が原因でさらに多くの人の生活が破壊され、命も奪われてしまいます。
 選挙で自民党とその補完勢力である公明党・維新の議席を減らすのが最善の対策ですが、当面、国政選挙はありません。
 ただ、多くの人がこの異常さを指摘し、改善を求めれば、さすがの自民党政権も、対応せざるを得ません。
 現に、当初は複雑な制限が設定されていた「所得減少世帯への支給」が、多くの人が声を挙げたため「一人10万円一律支給」に変わった実績があります。
 さらに、安倍首相の身を守るために提出された「検察庁法改定案」も、ツイッターでもをはじめとする、多くの人々の反対の声におされ、2020年通常国会での強行が断念に追い込まれました。
 同様に、「コロナによる中小業者S・働く人の所得減は政府が万全の形で保証すべき」という大きな声を上げれば、この「遅くて少ないコロナ補償」も変える事ができます。
 もちろん、筆者も、政治に携わる者として、今のやり方を変えるために全力を尽くそうと思っています。