空論による法人税減税宣伝

 経団連とマスコミが、様々な理由で「法人税減税キャンペーン」を行っています。「理由」として挙げるものに「他国に比べると高い」「したがって、このままでは、高すぎる法人税から逃れるために企業が国外に逃げてしまう」「減税により企業が成長し、国全体の経済が上向きになる」「法人税率が下がることにより、海外からの投資が増える」などというのがあります。
 このうち、「他国に比べて高い」ですが、ごく一部の「高い部分」を過大に強調し、実際に支払っている税率や、国際的に低い社会保障の企業負担率の低さをあえて無視して作成された空論です。

 それが空論である「証拠」の一つに、「国際比較」宣伝の後段部分である「企業が外国に逃げていってしまう」にあります。
 新聞などは、毎日のように、この「税金が高いと逃げていく」論を宣伝しています。ところが、同じ紙面の国際面を読むと、奇妙な事に気づきます。
 そこには、よく海外に生産拠点を作った日本企業の事例が出ています。しかし、その理由として書かれるのは「人件費の安さ」や「現地需要を見込んで」がほとんどです。「法人税対策のために海外に」などという記事は一度も見たことがありません。
 もちろん、その理由は、「日本の法人税が他国に比べて高い」という主張そのものが事実と異なるからです。とはいえ、世界には法人税に社会保障の企業負担率などを加味しても日本より企業負担率の低い国も存在はするでしょう。しかしながら、その税率を目当てで、本社機能ごと他国に移転するという会社はどのくらいあるのでしょうか。
 法律・文化・風習の違いなどで、日本よりうまくいかない事も多々あるでしょう。実際、人件費を理由に中国に進出した企業が、ストによって生産停止、という問題が現在進行形で発生しています。
 さらに、長年築いてきた、政・官・マスコミとの繋がりも初期化されてしまうわけです。トヨタが欠陥車を売った問題なども、これが日本だけだったら、政・官もトヨタ側に立つでしょうし、マスコミも大きく報じなかったでしょう。しかし、それらの繋がりが日本に比べて弱いアメリカで問題が発覚したからこそ、トヨタはあそこまで叩かれたわけです。
 そのようなリスクを取ってまで、海外に「逃げる」企業など、本当に存在しうるのでしょうか。
 このように、「日本の法人税は国際的に高い」「したがって、多くの企業が逃げてしまう」という、マスコミの宣伝は、あらゆる点において、現実と大きく乖離している空論である事が分かると思います。

 なお、三番目の「減税により企業が成長し、国全体の経済が上向きになる」ですが、これまた「海外に逃げる」に劣るとも勝らぬ空論です。確かに税金が減れば企業に残る金は増えるので、必然的に利益は増えます。しかしながら、仮にそれで企業が「成長」したところで、その利益を享受するのは一部の富裕層だけです。
 法人税減税によって増える企業の利益は、営業利益に営業外損益・特別損益を加味したものから法人税を引いた「当期純利益」です。しかし、「当期純利益が増えたから配当が増えた」、という事はあっても、「当期純利益が増えたから社員の給料が増える」という話はまず聞きません。
 したがって、法人税が減ったところで、それが回りまわって一般国民の経済を潤す、などということはありません。このあたりは、前回書いた記事も参照していただければ幸いです。
 最後に、四番目に挙げた、「海外からの投資が増える」ですが、率直に言って、これのどこに利点があるのか分かりません。海外からの資金、という事でまず思いつくのはヘッジファンドです。確かに、一時的に資金が入ってくるのかもしれません。しかし、それで儲かるのは投資するほうであって投資先の国民ではありません。
 しかしながら、向こうの都合で資金の引き上げが発生した際は、残された国民には多大な被害が発生します。そんな物騒なものを、「財政危機」のなか、税収を減らしてまで呼びこむ必要があるとは思えません。
 このように調べれば調べるほど、財界・マスコミ・保守政党が合唱している「法人税減税」が、彼らにとってのみ益があり、一般国民にとっては害しかないことがよく分かります。

空論による法人税減税宣伝」への2件のフィードバック

  1. 3番目の点を強調することは当然重要と思います。加えて今、4番目の点にも注意を払っていかなければならないのではないかと思う今日この頃です。

  2. 座標軸 様
    はじめまして。コメントありがとうございます。
    マスコミの宣伝には、虚偽や誇張が多く、真に受けると大変な事になってしまいますね。
    色々と、その裏や隠されている事に気をつける必要があると、強く思います。

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