民主政治を壊そうとする人々が権力を持つ国

 特定秘密保護法案が、衆議院に続いて参議院でも強行採決されました。
 この法案は異例なまでに短い時間で審議されまた。しかし、その短い間に、この法案の異常さは世間に広まり、極めて大規模な反対運動が繰り広げられました。
 学者・弁護士などの多くが反対声明を出し、積極的に行動しました。それだけ多くの専門家が、この法案の異常さを指摘したわけです。

 さらに、参院で強行採決される、という情報が流れたら、連日、国会の前に多くの人が集まりました。
 参院本会議で強行採決された12月6日には、1万5千人もの人が集まりました。日本国民の0.1%が集結したわけです。
 しかも、その後もさらに人が集まったと聞きます。
 もちろん、そのような抗議行動に参加しても経済的には一文の得にもなりません。交通費も自腹です。そんななか、寒い冬の中、それだけの人が集まりました。
 確かに、国会では、特定秘密保護法に賛成する議員が多数を占めていました。
 しかしながら、それだけ多くの国民が、わざわざ国会まで出向いて反対の意思を表明したのです。

 さらに、国会内部での論戦において、自民党・公明党は、まともな説明ができませんでした。
 「担当大臣」であるはずの森大臣の答弁は何度も言っている事が変わりました。この法案の最大の問題点である「憲法違反である可能性」をはじめ、様々な問題点の指摘に対し、筋の通る答弁を行うことができませんでした。
 問題点が解決されないならば、そのような法案を成立させてはいけない、というのは民主政治の基本です。
 にも関わらず、連日の強行採決を行ったわけです。
 特に、5日の委員会で与党が行ったのは「強行採決」とすら言えないものでした。速記録を見ても、自民党議員が騒ぎ出して何言ってるのか分からない、という事しか分かりません。
 このような形で「成立」した法律が、民主的手続きにのっとって作られたとは断じて言えないでしょう。

 ところで、この採決について、讀賣新聞の政治部次長が民主主義 誰が「破壊」? 多数決の否定はおかしいなどと署名記事を書いていました。
 この政治部次長氏を筆頭に、「民主主義=多数決」などと主張している人がいます。しかし、これは根本的に間違っています。
 政治部次長氏は憲法まで持ちだしていたようです。しかし、それならば、仮に「憲法を無効にする」などという法案でも多数決で決めれば「合憲」となるのが立憲国家において民主的な手続きを踏まえた結果、となってしまいます。
 そもそも、多数決でいいならば、議会での討論など不要です。政権党が法律を提出し、それをひたす採決すればいいだけです。
 委員会も公聴会も、それどころか国会質問すらやる必要がなくなります。
 たとえ、多数派が出した提案でも、討議を繰り返し、その結果、問題点や欠陥があったらそれを修正する。そして、修正でも解決できないのなら、その提案は賛成派が多数であろうともとりやめる、というのが民主政治なのです。
 ましてや、この法案は、憲法に抵触していると多くの人が指摘していました。その問題に対し、与党側は、合憲であるという事を説明できませんでした。
 そのような法案を、「多数決だから」と採決していいわけがありません。

 この経緯を見ても、特定秘密保護法は、民主的手続きを正しく取っていたら、成立し得ない法律なわけです。
 日本は「民主国家」のはずです。しかしながら、安倍首相を筆頭に、現在権力を握っている人たちは、民主的な政治を行う気は毛頭ありません。
 今回の特定秘密保護法の内容および、その成立手法は、その象徴と言えるでしょう。
 過去、このように、民主国家だったはずが、為政者の強権的な手法により、非民主的な政治を行った事例は多々あります。
 そして、そのような国においては、かならずと言っていいほど、多くの一般国民は戦争に巻き込まれたり、弾圧されるなど、悲惨な目にあいます。
 今回の、特定秘密保護法案の強行採決は、そのような国と同じ道を進む大きな一歩と言えるでしょう。
 とはいえ、まだまだ「正常な民主国家」に戻す機会は残されています。もし、ここで踏みとどまらなければ、日本国民は70年前と同じ目にあう危険性が極めて高まるでしょう。