タダ働きと過労死を生む「規制緩和」

 先週末ですが、厚生労働省の「今後の労働時間制度に関する研究会」というところが、「今後の労働時間制度に関する研究会報告書」なるものを発表しました。実質的には「労働時間規制の大幅緩和案」とも言うべき内容になっています。参考記事一覧
 最大の特徴は、管理職のみとされていた、時間外や休日労働の割増賃金なしの「裁量労働」を凖管理職にも拡大する、というものです。分かりやすく解釈すれば、「賃金を上げずに労働時間を増大させる制度」となります。一応、「本人の同意が必要」となっていますが、「仮に本人が拒否した場合に、賃金などに差をつけていいか」についての言及は見られません。
 一方、裁量労働の対象外になる労働者については、「有給休暇について、企業に取得を促進させる」「一定以上の時間外労働をした場合、残業代を割増する」などという、労働者にとって得になる案を出しています。こうやって見ると、労使双方に配慮しているように見えます。

 しかし、実際のところはどうなのでしょうか。「裁量労働」の範囲拡大の適用は簡単です。一度「本人の同意」を得たら、後は残業・休日出勤を前提としたノルマを押し付ければいいのです。こうすれば、経費をかけずに労働量を増やせ、その分が収益にまわるわけです。
 一方、「有給休暇の促進」ですが、こちらのほうは、「裁量労働の拡大」と違い、簡単に実現しそうには思えません。罰則でも設けなければほとんどの企業がこれに従うとは思えませんが、罰則についての記載も見当たりません。だいたい、有給休暇を全部消化しても仕事が片付くのなら、誰だって有給休暇を全部消化します。それができないという事は、労務体制より仕事の量に問題があるわけです。しかし、厚労省はそこに踏むこむつもりはなさそうです。

 この「裁量労働の拡大」は企業側からの要請によるものです。そのきっかけの一つは、トヨタだの東京電力だのといった日本を代表する企業が「サービス残業」という名前で、労働者にタダ働きをさせたのがバレた事です。その結果、未払い賃金の支払いを命じられた企業は儲けが減りました。
 それを受けて、財界が考えたのは、「労基法に沿うように労働時間を改善」でも「時間外賃金の適切な支払い」でもありませんでした。彼らが主張したのは、「時間外賃金の不払いの正当化」で、それを受けて厚労省が発表したのが「裁量労働制の適用拡大」なわけです。
 違法行為をしたほうが、自分たちの利益のために、それを合法化しようとし、それに行政が協力するのですから驚くよりありません。たとえば、18歳未満の相手を買春して捕まった人が、違法となる年齢を引き下げるように法改正を働きかけ、それが実現するようなものです。

 現在、格差拡大に伴なう「景気回復」のおかげで、多くの企業が過去最高の利益を挙げています。にもかかわらず、より一層の利益を挙げるために、より労働者を酷使する仕組みを作ろうとしているわけです。いったい、彼らが描いている日本の未来というものは、どんなものなのでしょうか。想像するとそら恐ろしくなります。