自分たちで煽っておきながら

 先週の強制捜査が契機となって株価が大きく下がり、少なからぬ人が大損をしたようです。それについて、日経新聞が「12月に経団連の奥田会長が『バブル期のような雰囲気になってきた』と言っていたにも関わらず、安易にネット取引などで株式投資をしたからだ」という論調で、大損した人達の「自業自得」のように書いています。
 実際、株式投資は自分の責任で行うべきもので、この考え方自体は間違っているとは思えません。しかし、よりによってこの新聞が言うのはいかがなものか、とも思いました。
 この新聞の2面や3面の下段を見ると、「主婦が株で大儲けした」だの「初めて投資した学生が何億円儲けた」みたいな本や雑誌の広告が毎日のように出ています。さらに、紙面に載る記事にも「株式投資を初めて短期間で大きく儲けた人」の例を挙げ、「貯蓄から投資の時代になった」みたいな感じで煽るような文章が一度ならず載っていました。
 もちろん、その頃は日経平均が上がり続けていたわけです。しかし、株なのですから、平均が上がろうと下がろうと儲かる人は儲かり、損する人は損をします。しかし、先日の急落までの約半年間、私の見た限りでは、「株で簡単に儲けた初心者」は出てきましたが、「儲けるつもりで株をやって損した初心者」が記事に出る事はありませんでした。

 それを今ごろになって、「先月から警告はあったのに・・・」などと言うのはいかがなものなのでしょう。だいたい、経団連会長の「お言葉」を出していますが、それが発せられた昨年12月と言えば、今回の株安の原因となった企業の入会を経団連が認めた月です。
 これらの宣伝の根本には、「貯蓄から投資」という考えがあります。これは、一般市民の余剰資金を、元本保証のある貯蓄から、保証のない投資にまわすべきだ、というものです。それによる利点はただ一つ、企業の資金調達が楽になる、というだけの事です。投資した一般市民にとっては、金利以上に儲かる可能性がある反面、元本割れという「リスク」を背負う事になります。しかし、仮にそれによって生じた損失は「自己責任」で出資した人間が受けるだけの事です。その結果彼らがいくら財産を失おうと、財界にもマスコミにもどうでもいい事です。
 マスコミが財界や自民党政府の意を受けて、読者に「主張」をしているのは、この「貯蓄から投資へ」だけではありません。「財政のためには、消費税増税か社会保障削減の二つしかない」「公務員を減らして『小さな政府』を作るべきだ」「日米同盟は最も重要なものである」「今の憲法は時代にそぐわない」なども同様です。つい最近まで主張していたものに「一部の危険性にこだわって、米国産牛肉の禁輸を続けるのはいかがなものか」などというものもありました。
 いずれも、仮にその一般市民が被害を蒙っても、マスコミは「だから言わんこっちゃない」という突き放した論評しかしないでしょう。こう考えると、今回の株安の発生前と発生後の報道の変化は、「マスコミの主張」の中身を知る、という意味では極めて有意義だったとも言えるかもしれません。

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