大企業の「6重苦」

 最近、財界人が日本の「6重苦」なるものを主張し、それをマスコミが報じています。その六つとは「円高、法人税が高い、貿易自由化の遅れ、労働規制、温室効果ガス抑制策、電力不足」で、この状態が続けば、企業は海外に出て行く、と脅しています。
 つまり、これらの制度を財界の都合のいいように変更しろ、と主張し、マスコミもそれを後押ししているわけです。
 では、その「6重苦」の解消とは、具体的にどのような政策によって実現されるのでしょうか。

 まず円高ですが、彼らの求めている対策をとるとなると、政府が円を売ってドルを買う為替介入を行わざるをえません。要は、税金からそれだけの円が「対策」のために使われるわけです。
 続いての「法人税が高い」は長年宣伝し続けている事です。既に何度も書いていますが、減免措置や社会保障費用の負担率を考えれば、他国に比べて日本企業の負担が高い、などという事はありません。いずれにせよ、減税すればもちろん、財政に悪影響を及ぼします。
 「貿易自由化の遅れ」は、TPP推進の事を意味しています。実現すれば一部輸出企業は儲かるのかもしれません。その代償に農業などの一次産業はもちろんですが、サービス業などの第三次産業も損害を被ります。
 「労働規制」ですが、日本の労働者は、労働時間・有休消化率のいずれも「先進国」と言えないレベルでの労働条件で働かされています。そして、残業代ピンはね・長時間残業、さらには過労死などの問題が頻発しています。
 その現状を見れば、「日本の労働規制は厳しい」などと言うのは妄言であるとしか言いようがありません。にも関わらず、より一層労働者をこき使わないとやっていけない、と主張しているわけです。
 「温室ガス効果抑制」についても、別に「温室ガス抑制に根拠がないから解除せよ」と言っているわけではありません。単に「温室ガスで地球の未来に悪影響を及ぼしても、そんな事は知った事ではない。今自分が利益を挙げれば、後は野となれ山となれだ」と主張しているだけのことです。
 「電力不足」については、「原発を再稼働せよ」を言い換えているに過ぎません。したがって、前述の「未来の地球など知った事ではない」に、「原発事故が再度発生し、福島と同様の被害が発生しようと、知った事ではない」が追加された主張だと解釈すべきでしょう。

 このように考えていけば、「6重苦」の対策によってどの層が痛みを受けるかは明白です。
 円高対策や法人税減税で税収が減れば、再分配の対象となる人の苦しみが増えます。TPPや労働規制緩和は、一次産業従事者や労働者の生活を苦しくします。そして、温室ガス規制撤廃や原発推進は、地元の人、さらには未来の人々に負担を押し付けます。
 それを代償として、自分たちの利益を増やしたい、というのが「6重苦」発言の真意です。

 彼らの「脅し文句」は「今のままでは海外に行かざるをえない。そうなれば産業が空洞化し、雇用が失われる」です。
 しかしながら、それを真に受けて「分かりました。ならば国民の生活及び未来の環境を犠牲にしますので、日本にいてください」などと懇願する必要があるとのでしょうか。
 仮にそこまでして「居残ってもらった」とします。しかし、彼らの利益はすぐに頭打ちになり、また「6重苦」を持ち出すでしょう。そして、「居続けてもらう」ためには、より一層、一般国民の生活と未来の環境を彼らに「切り売り」するよりないわけです。

 そんな事までして、彼らにいてもらう必要があるとは思えません。だいたい、「空洞化」などと脅してますが、仮に彼らが出て行ったら日本の経済がなくなるわけではありません。その後に新たな産業が興るだけの話です。
 「6重苦」などと主張している企業は、当然ながら国や自治体を動かせるだけの力と既得権益を得ているわけです。そのような権益を持っている企業がいなくなってくれば、新たな産業も育ちやすくなるでしょう。
 このように、「国民の生活と未来の環境を犠牲にしなければ外国に出ていくと脅す企業」は、日本にとって百害あって一利なしの存在なのです。彼らの要求を丸呑みして生活と未来を犠牲に残ってもらう必要性などどこにもありません。
 むしろ、積極的に日本から出て行ってくれるような対応を取ったほうが、生活や環境はもちろんの事、経済にも好影響をもたらす事でしょう。