新聞社による「棄権推奨記事」

 明日は参院選選挙です。新聞・テレビといった各マスコミは、様々な形で選挙報道を行なっています。また、選挙へ行こうなどというページを作ったりもします。
 これらを見ると、新聞社などの商業マスコミは投票率が上がることを願っていると、少なからぬ人は思うでしょう。
 しかし、実は違います。商業マスコミにとっては、投票率が低くなれば低くなるほど都合がいいのです。

 投票率を下げるためにまず行うのは、頻繁に発表する「世論調査」です。
 主要な政策に対する論議や批判が出尽くしていないというのに、「調査」を行なって、「自民党が圧勝」などという「結果」を発表します。
 競馬や競艇なら、そのような予想記事を流すのは重要でしょう。しかし、選挙においては、何ら意義はありません。「効果」があるとすれば、それを見た人が「もう結果は見えているのか」と諦めて投票を棄権することくらいです。

 続いて行うのは、「焦点」「争点」のミスリードです。
 衆院選では、この前のが「第3極」、その前が「政権交代」、もう一つ前が「郵政民営化」であると商業マスコミが「焦点」を設定し、それに関する動向ばかり報道していました。
 しかしながら、それらの「焦点」が実際には何の価値もなかったことは、現在振り返れば簡単に解ります。
 また、「争点」についても常に現実とズレた設定をしています。たとえば、消費税増税について、マスコミは一度も「争点」にしませんでした。
 別に立候補者がそれを話題にしていないからではありません。共産党などは、今回の選挙も含め、常に消費税増税を批判していました。
 それに対し、自民党や民主党は、反論もせずに口をつぐんだり、消費税問題を先送りするような話をしていました。すると、マスコミはそれを「争点」として扱わなくなるのです。

 今回の選挙でも、沖縄の辺野古移設問題は重要な争点です。それに対し、自民党候補は、党中央が「辺野古移設」を明言しているにも関わらず、「辺野古移設反対」などと言い出しました。
 すると、マスコミは「辺野古移設は双方の候補が反対しているので争点ではなくなった」などと書くわけです。
 この前のTPPで分かるように、自民党は公約を反故にする事など平然と行います。ましてや、当中央が「辺野古移設」を主張しているわけです。普通に考えれば、沖縄選挙区の自民党候補はでまかせを言っている事くらい誰でも解ります。
 しかしながら、そのような指摘を正面から指摘することはないわけです。
 このように、政権党が都合の悪いことに対して無視したり嘘を公約にしたりするとその時点でマスコミは「争点」ではないと宣伝するわけです。
 そして、「今回の選挙の争点が浮かび上がらない」などと書いて、暗に棄権を推奨するわけです。

 そしてトドメとばかりに、前日や当日の紙面で「どこの政党も主張が同じで投票する所がない」という記事を出します。
 よくあるパターンとしては、複数の有権者に取材をします。そして、「自分が困っている事を政策にしている政党は一つもない」だの「どの政党も言っている事は同じ」などという談話を掲載します。
 たとえば、先日の都議選では、「築地市場の移転問題をどの党も問題にしない」などと言う、「全ての党に失望した人」が登場しました。
 確かに、公約では築地問題を大きく取り上げた所はなかったかもしれません。しかし、それまでの都議会での論戦をちょっと見れば、共産党だけが何度もこの件の問題点を指摘していた事くらいすぐにわかります。
 そのような事実を伏せて「どの党も築地問題に関しては同じ」などと書くのは、読者を騙そうとしていると言わざるをえません。

 ちなみに、昨年の総選挙で日経は「『どの候補者も言っている事は同じ』という東京1区に住む20歳の女性」なるものを記事にしました。
 東京1区といえば、自民党から共産党、さらには又吉イエス氏まで出馬していました。その全員が「言っている事が同じ」などと言う人が実在するならば、よほど国語力に問題があると言わざるを得ません。
 ここまで来ると、本当に取材しているかまで疑わしくなります。
 いずれにせよ、これらの「記事」の目的が、読者に政治と選挙に失望させ、投票率を下げるためである事は明白でしょう。

 ではなぜマスコミはそのような事をして投票率を下げようとするのでしょうか。
 それは、投票率が下がったほうが、各社の利益に直結するからです。
 かつて、自民党の森首相(当時)は、「投票日に国民が寝ていてくれたほうがありたがい」と言いました。
 これは、投票率が下がれば下がるほど、自民党に有利に働くという事を、露骨に表しています。
 一方で、商業マスコミの経営者は、自民党幹部とべったりです。現在のマスコミでの最高権力者である讀賣の渡辺氏は、自民党幹部の秘書まがいの事をして出世し、現在の地位に登り詰めました。
 その癒着は現在も続いており、現在の安倍氏は首相になって真っ先に各マスコミの経営陣、続いて幹部社員と高級ホテル・料亭で食事会を繰り返しました。
 その「食事代」に見合った分、商業マスコミは自民党が有利になるため、投票率を下げる報道を繰り返すわけです。
 このように書くと、2009年の衆院選では民主党びいきだったのでは、と疑問に思われる方もいるでしょう。
 あの時は、リーマン・ショックもあって経済の落ち込みがひどく、国民の自民党への不信は頂点に達していました。
 このままでは自民党のみならず、その後ろにいる財界も含めた「自民党的な政治」にまで矛先がおよびかねない、という状況でした。
 そのような時のために財界が用意していたのが、本質的な中身は自民党と変わりがない「二大政党」である民主党でした。
 そのため、その選挙の時に限り、「民主党への政権交代」をマスコミは煽り立てたのです。
 そして予定通り政権を奪取した民主党は、当初は勇ましい事を言っていたものの、あっさりとマニュフェストを撤回し、「第二自民党」という正体を露骨に現し、消費税増税などを行いました。
 その際、「マニュフェストに違反しても『コンクリートから人へ』という方針を撤回すべきだ」と煽ったのがマスコミと財界でした。

 そのような例外(財界の望む形に有権者を煽った、という点では従来通りですが)はあれど、基本的には、建前では「選挙に行こう」と言いつつ、実際には投票率を下げようとする記事ばかり載せていたのが商業マスコミの本質です。

 その結果、自民党が長期政権を取り、その不満が制御しきれなくなった時も、予定調和の「政権交代」でごまかされました。
 そして、そのような財界が望み、マスコミが煽った政権が続いた結果、普通に働く人の生活は苦しくなる一方になったわけです。

 極めて高い確率で、21日の紙面でもマスコミは「棄権推奨記事」を掲載するでしょう。
 しかし、それを真に受けて棄権すれば相手の思うつぼです。
 その事も考え、必ず投票所に足を運んでいただくことを、強くお願い致します。

参考記事・選挙を棄権する、という事