カテゴリー別アーカイブ: 経済

有効求人倍率の正体・後篇

 前回、安倍首相が、常日頃「アベノミクスの成果」として誇っている有効求人倍率が、雇用や景気の改善の指標ではない事を、バブル期の有効求人倍率と比較しながら述べました。
 今回は、より具体的な例を挙げて、現在の有効求人倍率の高さの中身について論じてみます。

 その前に、有効求人倍率の定義について、再確認してみようと思います。
 有効求人倍率とは、ハローワークにおける「求人の数÷求職者の数」です。あくまでも「求人の数」ですので、月給100万円の正社員募集でも、週20時間勤務のパート・アルバイトの募集でも、「求人数1人」と数えられるわけです。
 ここに注目しながら、ある会社の事例を紹介します。

 ある、アルバイトを何千人も雇用している会社が、「勤務時間が週に30時間を越えているアルバイト」をリストアップしました。
 勤務時間が週30時間を越えると、正社員でなくても、会社には社会保険に加入させる義務が生じます。
 保険料は企業と従業員が折半なので、会社にも費用が発生します。
 利益を増やすために経営層は、この社会保険料の会社負担を節減する事にしたわけです。

Continue reading

有効求人倍率の正体・前篇

 安倍首相の発言で、判で押したように出てくるものに「有効求人倍率が1を超え続けている。したがって雇用も景気も良くなっている。これがアベノミクスの効果だ。」というものがあります。
 実質賃金や消費支出など、ほとんどの国民において、経済指標が悪化し続けています。そんななか、極めて少ない「改善」されている数字なので、ついつい使いたくなるのでしょう。
 しかしながら、果たして、この「有効求人倍率の上昇」によって、景気や雇用が良くなったと言えるのでしょうか。
 結論から言うと、そのような事はありません。むしろ現在の有効求人倍率上昇は、「雇用の悪化」「景気の悪化」ゆえに生じていると考えるほうが妥当なのです。

 もちろん、景気が良くなったから有効求人倍率が上がった、という事例はありました。
 たとえば、1990年代のバブル華やかなりし頃はそうでした。所詮は泡でしたが、確かに世の中に多くのお金がまわり、消費が増えました。その結果、様々なサービス業が誕生しました。
 それを運営して利益を上げるためには人材が必要です。そのため、各産業は時給や待遇を釣り上げて、人を集めました。
 しかし、これはあくまでも、「景気が良くなったから有効求人倍率が上がった」という話です。だからと言って、その逆である「有効求人倍率が上がったのだから景気は良くなった」が成立するわけではありません。

現在の有効求人倍率の高さはバブル期と同じになりましたが、ぞの中身は全く違います。

現在の有効求人倍率の高さはバブル期と同じになりましたが、ぞの中身は全く違います。

Continue reading

「アベノミクス」の成果を粉飾する新聞

 今日の毎日新聞一面に「アベノミクスで日本経済はどこまで回復したか」という表が掲載されました。

毎日新聞2016年6月2日付一面に掲載された表

毎日新聞2016年6月2日付一面に掲載された表


 パッと見ると、右肩上がりの赤い矢印が多く、表のタイトルのように、「アベノミクス」で日本の経済が良くなったかのように思ってしまいます。
 しかし、よく見ると、この表にはきわめて恣意的な「工夫」が二つほどなされている事がわかります。

Continue reading