「成長」と「逆行」

 自民党の参院選用TV広告のうたい文句は「成長か、逆行か」だそうです。「成長」というのは、「小泉改革」以来続いている「経済成長」の事かと思われます。
 20世紀半ばまでは、「経済成長=国民生活の向上」でした。しかし、現在の経済成長は違います。確かに大企業の数値は成長し続けていますが、それは労働者の取り分を企業が奪っただけの事です。正社員には長時間労働と賃金抑制を行い、さらに低賃金非正規雇用者を増やしています。そこで浮いた賃金が儲けの一部となって、「成長」を支えているわけです。さらに、「法人税減税・消費税増税」のように、さらに一般国民の金を大企業に移転することによって成し遂げられる「成長」政策が準備されています。
 そのような、小泉・安倍型(もしくは奥田・御手洗型)の「成長」をより一層進めるためにはどのような事が行われるでしょう。一つのヒントとなるのが、「参院選が近いから」という理由で先送りされた「ホワイトカラー・エグゼンプション」でしょう。つまり、自民党は堂々と、「これからも正社員・非正規雇用者ともより低賃金でこき使い、大企業の利益を上げる」と宣言しているわけです。

 一方の「逆行」ですが、これは今ひとつ理解できません。自民党政府の高官は事あるごとに、戦前の天皇制政府および、その下で行われたアジアへの侵略行為を肯定しようとしています。先日も、自民党と民主党が超党派で、アメリカの新聞に、かつて日本軍がアジアの女性を攫って性的虐待を加えた事を肯定するような意見広告を出していました。
 このように、自らがかつての「一部政治家と大企業だけが、国民の命と安全を引き替えに金を儲けた時代」に「逆行」しているわけです。にも関わらず、「成長か、逆行か」などと二択みたいに言っているのには理解に苦しみます。まあ、彼らとしては、自分たちの「逆行」が前進しているように見えるのでしょう。したがって、自分たちの利益のために国民が犠牲にならない社会へ向かうのが「逆行」に見えるのかもしれません。
 いずれにせよ、自民党は堂々と、これまでの「成長」路線を続ける事を宣言しました。ちなみに、うたい文句の副題には「成長を実感に」と言うのがあります。先述したように、現在の「経済成長」の豊かさが普通の国民に波及することはありません。という事は、これまで、多くの人にとっては他人事だった「偽装請負」だの「ネットカフェ難民」だの「過労自殺」だのと言った、「成長の副産物」を、より多くの国民に「実感」させると宣言しているのでしょうか。
 とにもかくにも、自民党は「国民の犠牲を下敷きにした成長」を堂々と宣言しました。おかげで、犠牲にならないごく一部の層を除けば、自民党への投票は、自らの生活を低下させるものになる、という事がより明確になりました。そういう意味では適切なTV広告だったと言えるのかもしれません。