誰のための「日米同盟」

 沖縄の米軍基地問題が連日報じられています。その中で見られる論調に「日米同盟は国の基軸である」というものがあります。これは、「日米同盟」は我が国で最も重要な存在である。したがって、地元住民の反対などよりも、アメリカの意思通りに基地移設を進めるべきだ、というものです。
 ところが、なぜそこまで「日米同盟」なるものが重要なのか、となると、説得力がありません。結局、最後に落ち着くところは「中国と北朝鮮の軍事的脅威に対抗する」になります。冷戦時代から使い古されている「仮想敵がいつ攻めてくるか分からない。その時、守ってくれるのはアメリカしかいない」という論法です。
 ちなみに、日米安保条約締結時から1990年代までの最大の仮想敵はソ連でした。それが崩壊したら、北朝鮮が後釜を引き継いだ、という次式になっています。

 それでは、本当にこの二国が日本に攻めてくるのでしょうか。
 今や中国は、アメリカと並び、日本にとって最大の貿易相手国です。経済のみならず、観光や留学など、人的交流も盛んです。そのような重要度の高い国に戦争をしかける必要があるとは考えられません。ましてや、本当に戦争をやって、中国が勝ち、日本を征服でもすることになったら、中国にとってはかなりの経済的損失が発生します。アメリカとイラクのような、原油の権益さえ奪えればいい、という関係とは違うのです。
 逆に、北朝鮮は経済的に逼迫しています。当然ながら、戦争を仕掛け、さらに戦い続ける力があるとは思えません。万が一、暴発して日本に攻めていったとしたら、それを口実に、韓国が北朝鮮に侵攻して朝鮮半島を統一し、金正日政権が崩壊する、という結果になるのは明白です。
 そのような現実性のないものを「脅威」などと騒ぎ立てて、恐怖感を煽っているわけです。

 もっとも、だからといって、日本が外国の軍隊に対する脅威にさらされておらず、安全だ、という事でもありません。
 実際、一ヶ月ほど前にも、日本人が外国の軍人にひき殺される、という事件が発生しました。しかも、その国の軍は、その犯人をかくまい、日本の警察へ引き渡されていません。他にも、街中でいきなり主婦が、その国の軍人に殴り殺される、などという事件も記憶に新しいものです。
 被害は、軍人による殺害に止まりません。その軍は日本国内に騒音をまき散らし、時には墜落などで、日本の建物を破壊したりもします。
 この、様々な形で日本に脅威をもたらしている「外国軍」がアメリカ軍であることは誰でも知っているでしょう。
 つまり、日本人に最大の脅威となっている外国軍は中国でも北朝鮮でもなく、アメリカなのです。そして、その脅威を許しているものが、マスコミが言うところの「日米同盟」である、日米安保条約なのです。
 言い換えれば、沖縄を中心とした基地周辺の日本国民は、存在しない「脅威」を防ぐという名目のもと、アメリカ軍の脅威により、被害を受けているのです。

 ではなぜ、政治業者やマスコミは、日本の安全は日米同盟によって守られている、と言い続けるのでしょうか。
 それは、彼らにとっては、「日米同盟」があったほうが都合がいいからです。政治業者にしろ新聞社の偉い人にしろ、基地周辺のような物騒な所に家を構える人はいません。したがって、暴力や騒音の被害にあう事はありません。自分たちが安全である以上、他の国民が被害を受けても、彼らの知ったことではありません。
 一方、「日米同盟」の名のもとで、在日アメリカ軍や自衛隊が拡大すれば、そこと取引のある企業は儲かります。その利益は、政治献金や広告費として彼らに還元されます。
 また、このような従属を続けている限りは、アメリカ政府の下で、彼らの権益も安泰になります。何千億の「思いやり予算」を税金から供出したところで、彼らの収支的にはプラスです。それによって損するのは普通に納税している国民だけです。
 つまり、彼らにとっては、確かに「日米同盟」はなくてはならないものなのです。そして、その考えを、本当は「日米同盟」によって損をしている人にも信じ込ませる必要があります。
 そのために、いくら論理性や現実性がなくても、「中国や北朝鮮の脅威」などを持ち出して、「日米同盟は国の基軸」などと言い、アメリカ軍の駐留を主張し続けるわけです。その宣伝の効力が続く限りは、日本国民の安全が外国軍の脅威から守られる日は遠いでしょう。