「パイ」が大きくなった結果

 一時期、「経済のパイ全体を大きくすべきだ」という主張を商業マスコミや経営者が声高に主張していました。要は、企業の収益が向上すれば、経済自体が大きくなり、それによって、一般国民も豊かになる、という論調です。
 その「経済のパイ」はその後どうなったのでしょうか。それについて、しばらく前の日経新聞に興味深い記事が載っていました。
 それによると、3月末の現預金と短期保有の有価証券を合計した手元資金は63兆円と、決算が連結主体になった00年3月期以降で過去最高を記録。日本の10年度予算の一般歳出(53兆円)を上回ったとのことでした。要は、上場企業全体で、使おうと思えばすぐに使える金が、国家予算に匹敵するほど貯まっている、というわけです。

 このように、企業の収益は向上しました。しかしながら、彼らが主張したような、その収益が一般国民に波及する、などという現象は発生していません。
 その理由は極めて明快です。これらの企業の収益向上は、従業員・下請けなどが得るべき金を企業が得ることによって発生したからです。
 一番わかりやすい例はトヨタでしょう。その杜撰な品質管理により、死者を出すような事故を発生させ、全世界的なリコールを受けました。必然的に売上げは落ちましたが、この前の四半期決算は黒字に「回復」しました。
 その理由は、これまでの反省から、安全な自動車を開発し、それが売れた、などというものではありません。マスコミは「コスト削減」としか書きませんが、これまた、画期的な生産方法を開発して、無駄を削ったわけではありません。
 「削減」されたのは、下請けに払う工賃・部品代および、従業員に支払う給料です。つまり、自社の損失を、下請けや従業員に押しつけることにより「黒字化」を達成したわけです。
 一方で、一部自動車の売上げも上がってはいます。しかしながら、その要因は「エコカー減税」だそうです。要は、国のカネで赤字を補填してもらったようなものです。
 もちろん、黒字になったからと言って、下請けの工賃を上げたり、給与を上げるなどという事はありません。
 売上げが増えたら黒字になった会社がより多く生産します。同様に、コストを削減して黒字になった企業は、より一層のコスト削減を計画します。逆の事を行なうなど、ありえないのです。

 というわけで、「『パイ』が大きくなれば末端まで潤う」などという主張が荒唐無稽な誤りであることは、現在の企業と国民の経済状況という、明白な事実によって証明されました。しかしながら、マスコミも経営者も、それを認める事はありません。
 そして最近はもっぱら、「国家財政のために消費税を増税すべきだが、経済のために法人税は減税すべきだ」という主張を繰り返しています。形を変えたものの、「大企業だけ得して国民は損をする」体制を強化する、という意味では「パイ」と何ら変わりありません。
 もちろん、消費税が上がって法人税が下がったところで、社会保障が安定することも、法人税減税が一般国民に波及することもありません。これは、ここ20年の歴史が照明しています。
 しかしながら、それが再度明白になった時には、マスコミも経営者もまた別の手法を用いて、「国民を犠牲にして自分たちだけが儲ける手段」の宣伝をすることでしょう。そして、それらの宣伝を真に受ける人が多数派である間は、彼らは多くの国民が苦しむ中で、収益をあげ続ける事ができるわけです。

「パイ」が大きくなった結果」への1件のフィードバック

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