企業収益と個人消費の関係

 日経新聞の三面に「4月から6月にかけての経済成長鈍化」に関する記事がありました。その中の一節に「輸出増→投資→雇用・所得→個人消費という好循環もうまく働かなかった」というくだりがありました。
 これまで散々、この新聞は「大企業が成長すれば、それが個人消費に行き渡る」と主張し続けていました。その「教義」を元に、民主党政権が発足当初に主張していた「成長より分配」を否定しているわけです。
 ところが結果として「一部大企業は好調なのに、個人には行き渡らない」という従来の主張と全く異なる結果が出たわけです。しかしながら、この記事は他人事のように「うまく働かなかった」などと書くばかりで、その原因にはふれていません。

 まあ、原因にふれられない気持ちは分かります。何故ならば、現在の日本経済には「輸出増→投資→雇用・所得→個人消費という好循環」など存在しないからです。
 輸出が増えたところで、その利益は内部留保として配当の原資にするか、低賃金ゆえに高収益が見込まれる海外への投資にまわるのが普通です。もちろん、国内に投資される分もあります。しかしながら、それも労働者の雇用と所得には結びつきません。
 何しろ、業態を問わず、企業の収益改善の理由として必ず出てくるのは「コスト削減」です。この「コスト」の少なからぬ部分は人件費です。別に輸出で儲けようと儲けまいと関係ありません。利益のためには削れるものは削る、というのが大企業の一貫した方針です。したがって、企業の利益が多数国民の個人消費に回るなど、ありえないのです。
 しかし、それを明らかになると、これまで主張し続け、今後も主張するであろう「大企業成長万能論」が事実でないことが、白日のもとにさらされてしまいます。だからこそ、「好循環もうまく働かなかった」と他人事のように書くよりないのです。
  実際、同じ日の一面には、この「大企業成長万能論」の教義に基づいて、東大教授氏が「法人税を下げて消費税を上げよ」という、日経新聞のテンプレートに則った「主張」をしていました。
 もちろん、この「法人税減税・消費税増税」が実現し、大企業の当期純利益が上がっても、ほとんどの国民は増税で苦しむだけで、何一つ得することはありません。
 そして、仮にそのような事態が明るみになったと時にも、この新聞が過去に行った宣伝と事実をつけあわせて検証する、などということはしません。「法人税減税と消費税増税が経済に及ぼす好影響もうまく働かなかった」と、他人事のように書くだけしょう。