老人への敵視を煽る報道(現代における分断支配・その2)

 現役世代が将来受け取る年金が不足する、という見通しがよく報じられます。その「対策」としてマスコミがよく宣伝するものが二つあります。一つは消費税増税で、もう一つは「現在の老人世代は受け取りすぎている。彼らの取り分を減らせ」というものです。
 今回は、この後者の主張である「老人が受け取りすぎている」という主張について考えてみます。

 確かに、現在の状況を見ていると、現在の老人世代より、現役世代のほうが年金の受取額は少なくなりそうです。
 しかし、その理由は、年金をはじめとする社会保障を後退させてきた政策が原因です。受け取る側に罪はありません。
 それを、「老人がもらい過ぎだ」などと、あたかも彼らのせいで、現役世代が損をしているかのように煽るのはなぜでしょうか。

 以前、マスコミが公務員叩きを煽る事について、現代に生きる「分断支配」の構図という形でまとめました。そこにおける、「給与削減などによる会社員の生活困窮」を「年金支給減による将来不安」に、「生活困窮の矛先を公務員に向ける」を「年金不安の矛先を老人に向ける」に置き換えると、ほぼ同じ構図になります。
 つまり、年金に不安を持つ世代の怒りの矛先を、年金削減の原因を作った政府やそのような福祉の後退を指示した財界でなく、現在年金を受け取っている人に向け、本質を見えなくするのが、一連の報道の目的なのです。

 なお、このような「老人叩き」は今に始まった事ではありません。かつてよく報道機関が行ったキャンペーンとして、「一部自治体が老人医療を無料化した結果、医療機関が老人クラブのようになってしまい、他の世代に迷惑がかかる」というものがありました。
 その効果もあり、老人医療無料化はだんだんと後退していきました。その「成果」として、現在老人となった人が、後期高齢者医療制度など、老人の医療を後退させる制度の犠牲となっているわけです。
 また、同時に健康保険の本人負担増など、若い世代の医療も同時に後退しました。このことからも、老人に対する福祉を後退させたら、その分、若い世代が潤うなどという事はない、という事が分かります。

 これは、医療に限った事ではありません。また、いつの時代にも言えることです。老人へ支給される年金額が減ったとしても、その減額分が現役世代の支給増が実現することはありません。
 そして、現在の「現役世代」が老人になった頃には、またもやマスコミは「今の老人が貰い過ぎているから、現役世代は将来貰えないのだ」と制度の問題を受給者への敵意へすりかえる報道を行うことでしょう。
 だいたい、現在の老人はそんなに恵まれているのでしょうか。ニュースを見ると、毎日のように、老人の自殺や老老介護に疲れて配偶者を殺すような事件が出ています。それが、現在における「老人福祉」の現実なのです。
 いずれにせよ、年金問題において老人を敵視することは、百害あって一利なしです。その「現在の老人」へ向けさせられた「敵意」は、必ず未来の「老人となった自分」を厄することでしょう。