税と社会保障の一体改革における「現役世代」

 財界とマスコミが熱心に「税と社会保障の一体改革」の旗振りをしています。その口実として、「現役世代の負担軽減のため」という言葉をよく使います。
 実際に日本の社会保障に問題があるのは、福祉削減を推し進め続けた、当時の自民党政府と財界の政策が原因です。それについては触れずに、「老人の取り分が多いから」という分断支配の手法を用いて、「現役世代」の敵意を老人に向けさせるわけです。
 ところで、その「税と社会保障の一体改革」によって現役世代の負担はどのように軽減されるのでしょうか。

 一体改革のうち、「税」にあたる部分で行おうとしているのは消費税増税です。言うまでもなく、消費税の負担に年齢は関係ありません。どの世代であろうと、同じだけ負担が増えます。
 一方、「社会保障」にあたる部分で行われるのは給付の削減です。その方法は、実際に支払う金額を減らすことと、年金の支給開始年齢の変更などにより、支給対象者を減らす方法の二つに大別されます。いずれにせよ、給付が減ることには変わりはありません。
 これも世代は全く関係ありません。確かに、最初に被害を受けるのは「引退世代」です。しかし、将来受給する現役世代も同じ目にあうわけです。むしろ、この道筋が作られれば、今後も同様に削減が進むでしょう。そう考えると、現役世代はより負担が重く、給付が減るわけです。
 こうやって考えれば、「税と社会保障の一体改革」が現役世代にとっても百害あって一利なしである事は簡単に分かります。その一方で、財界やマスコミは「現役世代の負担軽減のため」と宣伝しています。なぜこのような事が起きるのでしょうか。

 その疑問を解く鍵は、「現役世代」という言葉の定義にあります。「現役世代」と聞けば、現在労働していて、将来社会保障を受ける予定の人、いわゆる「生産年齢人口」に近い世代を思い浮かべるのが普通です。実際、ここまでこの文章でも。それを前提に書いていました。
 しかし、実はマスコミの記事において、「現役世代」とはどのような人々を意味するのか、という定義はなされていません。
 では、その記事における「現役世代」とはどのような層の事なのでしょうか。その答えは、「現役世代の負担軽減のための一体改革」という言葉に隠されています。
 「一体改革」が実現し、消費税を増税し、福祉を削減しても負担が発生しないという条件を満たせるのは、かなりの収入を得ている人たちです。すなわち「一体改革」を進めている財界やマスコミの経営層が当てはまります。そして、年齢こそ高いものの、確かに彼らは現役で活動しています。
 つまり、彼らの言う「現役世代」とは「財界やマスコミなどに現役で所属して高収益を得ている世代」なのです。もちろん、それを読んだ生産年齢世代の労働者が、「現役世代の負担軽減」と聞いて、「一体改革が進めば自分たちの負担を軽減する」と勝手に誤解しても、それは彼らの知った事ではありません。

 これまで、国鉄解体・小選挙区制・郵政私企業化など、多くの国民が損をして、財界などの一部だけが儲かる政策が何度も行われてきました。いずれに於いても、それを推進する際には、それが実現さえすれば、普通に働いている一般国民に益がある、とマスコミは宣伝していました。今回もその手法を使っているわけです。
 「現役世代の負担軽減のため」の本当の意味が「財界などに属する現役世代の負担を軽減するために、高齢世代のみならず、普通に働いている生産年齢人口の負担を増やす」である、という事を意識しておく必要がああります。さもないと、現実を180度逆に認識してしまうでしょう。