権力者の死と軍部暴発の因果関係

 半月ほど前に、北朝鮮の最高指導者であるキム=ジョンイル氏が亡くなりました。それ以降、新聞や週刊誌は「北朝鮮軍が軍事行動を起こす可能性」などという記事を何度も流しています。
 私の知る限り、歴史上、圧倒的な力を持つ権力者が病死し、直後にその国の軍隊が他国を攻めた、という事例は聞いたことがありません。普通に考えても、リーダーがいなくなれば、まずは国内体制を再構築しようとするのが普通です。
 もし、「軍部が暴発」する可能性があるとしたら、これまで過激な思想を持つ軍を、キム=ジョンイル氏が抑えており、死によってそのタガが外れた、というくらいしかありません。
 しかしながら、もしそうだとしたら、これまで散々「報道」されてきた、「ジョンイル氏は異常な独裁者であり、いつ日本に攻めてくるかわからない」という論調と矛盾してしまいます。
 つまり、この「軍部暴発報道」は、どう考えても破綻しているわけです。

 実際、さんざん煽った、「北朝鮮軍の暴走」などは、当然ながら一切発生しませんでした。しかしながら、「ジョンイル氏直後に、無責任かつ事実と異なる憶測記事を流し、いたずらに読者の不安を煽って申し訳ない」などと謝罪記事を載せた新聞・週刊誌はありません。
 このように、商業マスコミは「記事の正しさ」について、何ら責任感を持っていません。その事を象徴するような一件でした。

 今年は、原発事故関連において、商業マスコミの報道の不正確さおよび、その誤りが明らかになってからの無責任な態度が、従来以上に目立ちました。
 さらに、政府高官が原発に否定的な事を言うと感情的な言葉で否定し、その一方で大阪市長については、府知事時代の失政を無視して礼賛記事を垂れ流す、などという異常さもありました。
 この「何の根拠も論理的な理由もなく北朝鮮軍暴発を煽り、それが間違っていても何ら責任を取らない」というのは、この一年流され続けた「不正確・無責任報道」の総仕上げみたいなものだな、と思いました。