日経コラムが「ネット絶ち」を勧める理由

 2月7日の日経朝刊一面コラム「春秋」にアメリカのある元新聞記者の家庭で、週末にネット閲覧をやめたら、家族水入らずの時間が戻り、本に向かいじっくりと物事を考える習慣が戻る。アメリカではそのような「ネット安息日」を設ける人が多いなどという事が書かれていました。
 他にも色々と書いていますが、一言でまとめると「ネットから離れる日を設けるべきだ」という主張になります。。
 しかしながら、なぜネットは駄目で、他の媒体から情報を得るのがいいのかは何度読んでも分かりません。紹介した例ではテレビは絶たなかったそうです。しかしながら、家族水入らずを実現するには、テレビもないほうがいいに決まっています。
 だいたい、ネットが団欒や読書の邪魔になるのなら、一日の一定時間を「ネット禁止」にすればいいだけの話です。丸一日以上も遮断する必要などありません。

 こうやって考えてみると、このコラムは、論理的な理由もなく、「ただとにかくインターネットから情報を得る時間を減らしたほうがいい」と主張しているわけです。
 自社でも記事のネット有料配信を事業化しているわけです。にも関わらず、なぜこのような主張をするのでしょうか。
 そのヒントになりそうな記事が、同じ日に掲載された「大機小機」というコラムにありました。
 そこでは、相も変わらず消費税率上げキャンペーンが書かれています。その材料として、フランスではサルコジ大統領が、今年の10月から付加価値税(日本の消費税に相当)を19.6%を21.2%に引き上げを表明した。とし、さらにイタリア・イギリスでも付加価値税を上げる、という情報を紹介しています。
 もちろん、そこから導き出される「結論」は、「だから日本も大幅に消費税を増税すべきだ」というものです。
 実は、この主張には大きな嘘が隠されています。それは、「付加価値税(日本の消費税に相当)」という部分です。

 このコラムで挙げた付加価値税は、消費税のように全ての商品購入にかかるものではありません。食料品についてはイギリスは非課税ですし、フランスは5%、イタリアは10%です。
 つまり、この20%近い税率は、高級品にのみかかるものです。つまり、日本の消費税とは同じ間接税ではありますが、ぜんぜん違うものです。したがって、「EU諸国が付加価値税を20%以上に上げたから、日本の消費税もそれだけ上げていい」などというのは詭弁以外の何者でもありません。
 このような情報は、ちょっとネットを調べればわかります。「消費税をなくす会」のサイトには、各国の付加価値税率および適用範囲がどうなっているかについて、具体的な一覧表が掲載されています。
 また、国会図書館の資料にも各国の付加価値税率と食料品税率の一覧表(PDF注意・4ページ目)各国の付加価値税と食料品にかかる税率の違いが記載されています。これを見ると、EUの多くの国で、食料品にかかる税率を付加価値税の3分の1以下にしている事がわかります。

 別に筆者は付加価値税について詳しく研究したわけではありません。しかし、ちょっとネットで調べれば、この「大機小機」が嘘を書いている事がすぐ分かるわけです。
 しかしながら、冒頭に挙げた「春秋」子が推奨する「ネットを断った生活」をすると、どうなるでしょうか。他の商業新聞もテレビも、このような事は書いたり放送することはまずありません。したがって、このようなコラムの嘘も信じてしまう可能性が高いわけです。
 もちろん、これは消費税に限った事ではありません。原発事故・TPP・沖縄基地問題・大阪市長発言など、昨年から今年にかけて話題になった様々な問題において、大手新聞・テレビでは一切報じない事が、ネットによって明らかになった、という事は多々存在しました。
 一番有名な例は、読売新聞が「柏市や三郷市の一部で、放射線量が高い『ホットスポット』が存在する、という悪質なデマが流れている」という記事を載せた件でしょう。今では、これらの地域にホットスポットがある事など、常識であり、読売の記事こそが「悪質なデマ」だった事は明らかになっています。これなども、読売の記事が出た直後から、ネットでその検証が行われていました。
 つまるところ、冒頭の「春秋」が行った「ネット絶ちの勧め」は、あまりネットで情報を得られると、自分たちの発する虚偽報道がバレてしまうという理由で行ったと考えるのが自然でしょう。
 改めて、商業マスコミがいかに平然と虚偽を書いているか、およびそれを知られないためにどのような「対策」を取っているかがよく分かった一連のコラムでした。