国家財政のためなら消費税増税は仕方ない?

 消費税増税問題に関して、セットのように報道されるのが「このままでは国家財政が・・・」という煽りです。商業マスコミの「インタビュー」にもかなり高い確率で、「消費税増税は困るが、財政の事を考えると仕方がない」という「街の声」が伝えられます。
 インタビューに答える人は、真面目に国の将来を心配しているのでしょう。しかしながら、その中で、財政に対する深い知識を持っており、「日本の財政を持たせるには消費税増税しかない」と理論立てて説明できる人はいないでしょう。
 自分も財政の事に関する専門知識はありません。しかしながら、「国家財政のために、労働者や自営業者が消費税増税を容認する必要など一切ない」という事は断言できます。

 消費税が増税されれば、中小企業や自営業者は、その分を値上げするか、利益を削って増税分を自己負担するよりありません。もちろん値上げするのが本来の形ですが、この慢性消費不況の世の中でそんな事をすれば売り上げは減ります。
 結局、増税分を自分でかぶろうと、税率に合わせて値上げしようと、生活が苦しくなるのは間違いありません。下手すれば倒産・廃業などという自体になりかねません。
 これは、大企業に勤務している多くの労働者や公務員なども同様です。ただでさえ給料は減り続けているのに、消費税増税により出費が増え、生活が苦しくなるわけです。
 我々国民は国家の主権者です。にも関わらず、たかだか「国家財政」などのために、収入を減らしたり、場合によっては仕事を失ったりする必要があるわけがありません。

 しかも、1億数千万の日本人全てが、国家財政のために等しく「消費税増税の痛み」を分かち合うわけではありません。消費税増税を推進している財界およびそこに所属している大企業の経営層にとっては、消費税増税によって受けるダメージはありません。
 特に製造業などは、下請けの調達費や社員の給料を下げたり、非正規や派遣を切るなどの「コスト削減による経営努力」を行ない、消費税増税分を吸収する事ができます。
 消費税増税を推進している政治業者も同様です。政党助成金など大量の税金を貰っており、その金額は彼らが負担している消費税額を大幅に上回ります。つまり、彼らには「消費税増税の痛み」など存在しないのです。
 また、社説でさんざん消費税増税を煽っている商業マスコミですが、他人には消費税増税を甘受せよと言っているにも関わらず、自分たちの商材である新聞については「消費税率の減免」を求める運動をしています。
 つまり、「国家財政のため」だの「持続可能な社会保障のため」などと主張しながら、自分たちがその「痛み」を分かち合うゴメンだ、と考えているわけです。
 このように、消費税増税を煽っている勢力は、「国家財政」に貢献する気などさらさらないわけです。にも関わらず、彼らよりもずっと収入が低い労働者や自営業者が「国家財政のため」などと考えて消費税増税を受け入れ、生活を切り詰めて消費税の増税分を負担する必要などあるわけがありません。

 さらにより根源的な問題があります。それは、政官財が発表し、マスコミが流している「国家財政のために消費税を上げる」というものがそもそも信頼にたりうるか、という事です。
 1987年に消費税が導入された際、当時の自民党政府は「福祉のために」と宣伝しました。また、当時の商業マスコミは消費税賛成派と批判派がある程度別れていましたが、賛成派はもちろん、批判的な態度を取っていた社も「福祉のため」という建前自体は否定していませんでした。
 しかしながら、それからの25年間、「消費税によって福祉がよくなった」などという事例は、何一つ存在しません。

 財政全体についても同様です。かつて自民党は、野党に政策を批判され、対案を出されると「それには財政の裏付けがない」と主張し、マスコミもそれをそのまま報じていました。
 しかし、当時の自民党の政治に「財政の裏付け」が存在しなかったからこそ、現在言われている「財政危機」が生じているわけです。
 その事実から導き出される結論は、消費税を導入・増税した政治業者も、それを応援した商業マスコミも、財政について分析・検証する能力など持っていなかった、となります。
 そのような人々が宣伝する「消費税を増税しないと財政・福祉が維持できない」などという主張に信じる価値などあるのでしょうか。

 繰り返しになりますが、「国家財政のため」などという理由で、自分たちの生活を苦しめるような政策を受け入れる必要などありません。ましてや、「消費税を増税すれば国家財政が良くなる」という考えは、事実であるかどうか、極めて疑わしいものなのです。
 さらにその一方で、消費税増税を画策・宣伝している、財界・政治業者・商業マスコミは、自分たちは「消費税増税の痛み」を受けないよう、画策しているわけです。
 それらの事を考えれば、ただでさえ現在の生活も安定せず、さらに将来は極めて不安定な我々が、「国家財政のため」などという建前を信じて消費税増税を甘受する、という事がいかに「百害あって一利なし」な事なのか分かるのでは、と思います。