経済は不振なのに富裕層は増え続ける日本

 現在、日本の経済状態が後退し続けている、というのは多くの人々にとって共通の認識だと思います。
 そして、かつての「経済大国」に戻るべく、様々な提案が行われ、かつ実施されました。安倍首相の年頭所感も「まずは強い経済を取り戻す」だったとのことです。
 そのように、多くの政財界の人々が日本経済復興のための政策や計画をいくつも立て、実施しています。
 しかしながら、ここ10年以上、会社などで働いている人・自営業者・農民などのほとんどは、生活が苦しくなり続けています。収入は減るのに、負担と働く時間は増える一方です。
 しかも、今後の実施が予想される政策を見ても、消費税増税を筆頭に、より生活が苦しくなるようなものばかりです。
 なぜ、あれだけ多くの「偉い人」たちが、経済復興を目指して努力しているのに、なぜ我々の生活は苦しくなり続けるのでしょうか。

 その現象の原因を探るのに、興味深いデータがあります。
 それは、クレディ・スイス銀行という所が昨年10月に発表した、「グローバル・ウェルス・レポート」-日本についての分析-(※PDF注意)という資料です。
 「ウェルス」は「富」という意味です。この資料は、その日本の「富」がどのように推移しており、今後どのような推移が予想されるか、という事が記載されています。
 そこに記載されている事を箇条書きでまとめると、以下のようになります。

  1. 日本の家計の富の総額は、対ドル円高進行の影響もあり(前年比約2.5%)、前年比1.3%増の28.1兆ドル(約2,190兆円)に拡大
  2. 日本においては、100万ドル以上の純資産を有する富裕層は前年比で8万3,000人増加し360万人
  3. 純資産5,000万ドル以上を有する超富裕層(UHNW)は3,400人で世界第4位
  4. 2017年までの向こう5年間でみると、日本の富裕層人口は51%増加し、540万人に拡大すると予想
  5. 所得格差の代表的指標であるジニ指数でみると日本は60%と、国際基準でみても日本は所得格差が少なくなっている。

 つまり、あれだけ「経済が大変」と言われ、多くの人の収入と負担が増えているにも関わらず、富裕層・超富裕層とも増加しているのです。
 しかも、今後も富裕層は増え続ける、という予測すら書かれています。
 もしこれが、「今まで実施された経済政策の結果、日本全体が再び豊かになった。したがって、必然的に富裕層の数が増え、今後もその傾向は続く」という事でしたら、めでたいと言えるかもしれません。
 しかしながら、現状を見ると、そう考えるのは無理があります。確かに「富の総額」は増えているようですが、分析にあるように、それは円高ゆえの相対的なものです。しかも、円高の進み具合ほど、富は増えてはいません。
 にも関わらず、この1年だけで8万人以上も富裕層が増えました。さらに、4年後には180万人も増える、という見通しまで立っています。
 繰り返しになりますが、財界もマスコミも「日本経済の危機」と喧伝して、様々な対策を提言・宣伝しています。そしてそれを政府は実施しています。
 にも関わらず、我々働いている人たちの実感としても生活は苦しくなり、明るい見通しはありません。
 これらの事は、一見、矛盾しているように見えます。しかし実は、この相関関係には明確な整合性があるのです。

 多くの人が経済的に苦しくなっているのに、富裕層が増え続ける理由は一つしかありません。それは、現在、日本において、「富」を持っている層と、そうでない層の分化が進んでいるからです。
 しかも、現在の日本はまだ「一億総中流」時代の名残が残っており、世界全体で見れば、所得格差は少ないと、上記報告には書かれています。これはつまり、これから所得格差はどんどん広がる余地が多大にある、という事を意味しています。だからこそ、4年後にはさらに富裕層が180万人増える、という予想が立つのでしょう。
 なぜそのような現象が起きるのか、さらにこの状況が続くとどうなるか、については次回書きます。