ブラック企業で働く人が苦しむのは消費者のせい?

 先日、Twitterで「朝日新聞 消費者情報」というアカウントが、以下のような情報を発信していました。
清)先日ユニクロの「世界同一賃金」が話題になりました。「消費者」の目でみればユニクロは安くて品質の良いものが買える魅力的な店だと思います。ただ「労働者」「働く人」という目でみると、また違うものが見えてきます。(続く)
ユニクロに限らず、例えば時間指定の宅配システムとか、格安ショップとか、「消費者」にとって便利な事業では、ときおり「労働者」にとって深刻な雇用問題が表面化します。ほとんどの人は消費者でもあり、労働者でもある。「消費者にとっての正しさ」一辺倒の危うさを意識する必要があると思います

 この文章の主張は、「消費者が安くて品質のいいサービスを受けようと過剰に求める結果、それと引き換えにユニクロのような企業の労働者が長時間労働・過酷なノルマなどで大変な目にあっている」という事です。
 言い換えれば「ユニクロ労働者が大変な目に遭っているのは、ユニクロに安さを求める消費者のせいだ」ともなります。
 一見、もっともらしいように思われます。しかしながら、実はこの中にはとんでもない論理のすり替え並びに、労働者を苦しめる本当の原因の隠蔽が行われているのです。

 それを証明するために、まずは、「朝日新聞 消費者情報」が例として挙げたユニクロで考えてみます。
 ユニクロにはグループ会社には、より低価格を売りにしているブランドや、やや高級の婦人服を売っているブランドもあります。
 しかしながら、高級婦人服ブランドは価格が高いだけあって、労働時間が短く、賃金も高い、などという事はありません。同様に、低価格ブランドに比べれば、ユニクロのほうがまだ労働条件がいい、などという事もありません。
 これを見るだけでも、商品の価格・サービスの良さと、労働条件の厳しさに何ら関連性などない事など分かります。

 他の「ブラック企業」を見ても、消費者など何ら関係ないことは分かります。
 例えば、「すき家」などを運営するゼンショーという会社があります。様々な労働争議を抱えており、そこで繰り広げられる異常な主張がよく問題になります。
 「朝日新聞 消費者情報」の主張が正しければ、そこでの労働者が不当な扱いを受けているのも、消費者が安くて品質のいい牛丼を求めているから、という事になってしまいます。
 しかしながら、他の大手牛丼チェーンと比べ、「すき家」が安いわけではありません。牛丼一杯の値段は、「吉野家」も「松屋」も同じです。
 しかも、他者より「すき家」のほうがサービスがいい、などという事は一切ありません。それどころか、深夜に行くと、強盗事件に巻き込まれる可能性がある、というリスクすら存在します。

 同じく、「宅配便の時間指定」で考えてみます。
 確かに、このサービスは利用者にとって便利な一方、そのサービスを提供する労働者は過密・過重な勤務を行なっています。
 しかし、その問題を解決するのは簡単です。宅配会社が配送ドライバーを増やせばいいだけの話です。
 そうすれば、労働者にかかる厳しさは減ります。しかも、それによるメリットは消費者にも訪れます。運搬する人の苦労が減れば、時間指定の定時性もアップします。また、商品が壊れたり痛んだりするリスクも減ります。
 つまり、消費者がよりいいサービスを受ける事ができ、労働者も楽になるわけです。しかしながら、このような事は現実には実施されません。

 さらに、コンビニの例で見てみます。
 コンビニのFCオーナーの勤務時間が大変長い、というのはよく問題となっています。また、FC本部との訴訟もよく発生しています。
 これなども、「朝日新聞 消費者情報」の論法だと「消費者が利便性を求めているから、オーナーが大変な目にあう」となるでしょう。
 しかし、これもたまにニュースになる「消費期限が切れかけた弁当の安売り」問題で考えると、そうでない事が分かります。
 コンビニの本部は、消費期限が近づいた弁当類を、FCオーナーの判断で値引き販売することを厳しく禁じています。その結果、オーナーは売れ残りの廃棄率が上がり、より損する事になります。
 消費者の要望を考えれば、値引き販売したほうがいいに決まっています。 にも関わらず、オーナーは売れ残りを安売りできず、それによってさらに苦しみが増えます。一方で、消費者は安い弁当を買えないわけです。

 色々と事例を挙げてみました。いずれにせよ、「消費者が安い物・いいサービスを求める事」と「『労働者』『働く人』が大変な目にあっている」事に何ら関連性がない事は明らかになりました。
 にも関わらずなぜ「労働者」「働く人」は苦しんでいるのでしょうか。

 その理由も、ユニクロの現状を考えてみれば簡単にわかります。確かに、労働者は苦しんでいます。しかしながら、経営トップの柳井氏は、日本ではトップクラス、世界的にも上位に入る大富豪です。
 消費者はユニクロに安さを求めているはずです。ところが、その経営者は安さの代償として苦しむことなど何一つありません。それどころか、日本トップの大富豪になっているわけです。
 続いて、ゼンショーで考えてみます。先述したように、「すき家」の牛丼はライバル店と同じ値段ですし、サービスもむしろ悪いくらいです。
 しかしながら、決算発表時、この業界のトップの利益を上げるのは、たいていゼンショーです。その利益がどこから来ているか、もはや言うまでもないでしょう。

 他の件も同様です。消費者にも労働者にもメリットがあるのに、宅配業者がドライバーを増やさないのも、そのような事をすると、宅配会社の利益が減るからです。
 また、コンビニFC本部が、消費者にとって有難い弁当の安売りを認めないのも、廃棄させたほうが本部が儲かるからです。
 結局、労働者や働く人が苦しんでいるのは、会社が彼らから利益を搾り取り、その成果を経営者や株主などで独占しているからなのです。
 つまり、消費者の欲求などは、何も関係がないのです。

 にも関わらず、「朝日新聞 消費者情報」は、このように事実と異なる「消費者情報」を流しているわけです。
 昨年あたりから、商業マスコミも「ブラック企業問題」を記事にするようになりました。しかしながら、その内容は一見、批判的に書いているようですが、実際にはブラック企業にとっては、何の痛痒にもならないようなものばかりです。
 その一方で、このような「つぶやき」でブラック企業を擁護しているわけです。
 まあ、ユニクロを始め、ブラック企業本体はマスコミに莫大な広告料金を払ってくれます。一方、労働者も消費者もそのような広告代を払う金などありません。
 したがって、朝日に限らず、商業マスコミに所属している以上、そのスポンサーのみを利する情報を発信するのは必然とも言えます。

 いずれにせよ、このような詭弁を真に受けて「我々消費者が安さやサービスを求める事にも問題があるんだ」などと神妙になる必要など一切ありません。
 単に、「またブラック企業の広報期間が、詭弁を弄してご主人様をかばっている」と思って読み流せばいいだけの話なのです。