「蒲蒲線」に見る、過大な需要と経済効果予測

 たまネットで「蒲蒲線」という言葉を見かけます。
 これは、東京都大田区にある800mほど離れている、蒲田駅と京急蒲田駅の間を地下線で結び、東急多摩川線から京急空港線に乗り換えできるようにする、というものです。
 大田区役所にある計画書(PDF)によると、さらにそこから京急空港線の地下を走り、大鳥居駅で接続する約3.1kmの路線が計画の全体で、概算建設費は約1,080億円だそうです。要は税別1,000億円、という事なのでしょう。
 この大田区の資料を見ても、それを「取材」した東洋経済の記事を見ても、いいことづくめであるかのように書かれています。
 大田区内のみならず、西武池袋線・東武東上線・小田急線・南武線の沿線まで便利になるそうです。さらに、地元をはじめ、莫大な経済波及効果があり、開業初年度だけで建設費の倍以上となる2,385億円の経済波及効果が生まれると見込んでいる、とのことでした。

 そんな素晴らしい効果があるならば、とっくの昔に「蒲蒲線」は開通していると思うのですが…。
 もちろん、現実に「蒲蒲線」がないのは、1,080億円などという莫大な金額を投入をかけて造る意味がないからです。
 確かに、開通すれば東急多摩川線や、それに接続する東急の路線沿線の人は便利になるでしょう。とはいえ、たかが知れています。
 加えて言えば、このデータには、現在、高度に発達している首都圏各地と羽田を結ぶバス便の存在を無視しています。
 一例を挙げると、田園調布から羽田空港までは、現行の50分から31分と、19分の短縮になる、としています。
 しかし、田園調布から羽田空港ならば、バスを使えば乗り換えなしで41分で行きます。つまり、10分の短縮にしかならないのです。
 さらに、これは大田区の資料にもありますが、東武東上線や西武池袋線の利用者にとって「蒲蒲線」開通による短縮効果は3~4分です。
 小田急線や南武線に至っては、二回ほど乗り換えなければ「蒲蒲線」を利用できません。普通なら、これまで通りリムジンバスを使うでしょう。
 ここまで来ると、とにかく近隣を走っている鉄道路線を入れ込んで、「効果」を膨らまそうと考えているのでは、と疑いたくなります。
 もちろん、1分だろうと2分だろうと短縮されれば便利です。とはいえ、1,080億円を投入してまで造るものではないでしょう。

 さらに分からないのは、建設費の倍になって戻ってくる「経済波及効果」です。
 東洋経済の「記事」を見ても、区役所の部長も建設を推進している地元の有力者も「鉄道ができれば便利になる」程度の事しか言っていません。
 そんな事でどうやって、一年で2,000億円もの「経済波及効果」が発生するのか全くもって不明です。
 まあ、本当に建設が始まれば、少なからぬ関係者の方々には、有形無形の利益が生じるでしょう。さらに担当する職員は定年後の天下り先まで確定するわけですから、個人レベルでは「莫大な経済効果」がある事くらいは分かるのですが…。
 あと、1,080億円の算定基準がどれだけ綿密かも疑問です。とりあえず、17年4月に予定されている消費税増税が実現してしまったら、それだけでも20億円増えそうです。
 筆者の近所にある習志野市で行われている市役所建て替えでも、88億円と発表されていた建設費が20億円も上積みされ、100億を超えてしまいました。
 東京五輪もそうですが、このように「当初の計画より建設費が増える」というのは日常茶飯事です。

 これまで、様々な大型施設が、このような「過大な需要予測」と「根拠不明の経済効果」を理由として造られてきました。
 神戸空港のように、震災で苦しんでいる人を無視して無理やり造り、大失敗しました。
 他にも、空港・港湾をはじめ、税金を含めた莫大の金を投じて造られ、「予測」を下回る利用数と経済効果しか出せなかった、という例は山程あります。
 そこに投じられた税金の穴埋めは、市民サービスの低下や、市民負担の増加によって賄われます。
 要は、市民の生活を削った金で、鉄道だの空港だのを造るわけです。
 それを行う論拠がいかにいい加減かつ無責任かがよく分かる、この「蒲蒲線」の区発表の資料、並びにヨイショ記事だと思いました。