前回の鉄道惨事の教訓

 春の福知山線に続き、今度は羽越線で死者の出る鉄道脱線事故がありました。乗客数が少なかったため、死傷者の数も多くはありません。しかし、数両が脱線し、事故後一日以上経っても、被害者の捜索が完了しなかったなど、事故そのものの規模はあまり変わらないようです。これがたとえば帰省ラッシュの時期だったらどうなっていたか、と思うとゾッとします。
 前回の福知山線事故は「人災」とか言いようがなかったため、各マスコミもその線で報道していました。しかし、今回は、「偶然の天災」である可能性もあるので、事故原因において人災的な要因の報道はあまりなされていません。事故現場の風についても、「普段は強風がなかった」と「普段から風が怖かった」という運転士経験者の談話を「両論併記」している記事があったほどでした。

 そういう事もあり、あまり知られていないようですが、福知山線の通勤電車と今回事故が起きた「特急いなほ」には象徴的な共通点があります。それは、「競争による速度向上が社の課題だった路線で起きた惨事」という事です。
 大阪-宝塚間でJRと阪急が競争していたように、東京-酒田間では、JRと飛行機の競争があります。そのため、JRにとって、この区間の速度向上は課題だったようです。
 そのため、JR東日本がダイヤを改正する際、「東京-酒田間の所要時間の短縮」を宣伝する事は少なからずありました。今年の12月に行われたダイヤ改正に関するJR東日本新潟支社の発表で、一番最初に出ていたのも、上越新幹線を経由して乗り換えた時の「東京-酒田の最短時間が4時間42分から3時間55分に短縮した」でした。この短縮は、主に上越新幹線のダイヤ見直しによるものではあります。とはいえ、その際に、接続する「いなほ」の新潟-酒田間の所要時間も3分ほど短縮されています。
 そのような「スピードアップの掛け声」は、今回の「強風下で運転を再開するか、運休覚悟で待つか」という判断を下すにあたって何ら影響がなかったのでしょうか。

 ところで、4月の惨事の直後に、JR西日本の社員がボウリング大会を行い、それを全マスコミが事故そのものに勝るとも劣らぬ大不祥事であるかのように叩きまくりました。
 その教訓を生かしたようで、今回、JR東日本は極めて迅速な「対応」をしました。出場が決まっていた駅伝大会を即座に辞退し、それがマスコミに報じられました。また、私の知り合いが言っていましたが、JR東日本からレクリエーションの予約を受けていたのが、事故の数日後にキャンセルの連絡が来たとのことでした。
 5月に、「ボウリング大会批判報道」があったとき、私は次の大惨事が起きた時は、被害にあった社員はその場で救助活動を行い、またボウリング大会は即座に中止されるという形で「安全教育の徹底の成果」を見ることができるのかもと書きました。半分皮肉だったのですが、本当にそうなってしまいました。言うまでもない事ですが、いくら駅伝の出場や行事を取りやめたところで、マスコミ対策にはなっても、乗客の安全対策にはなりません。
 そのような「対応」を含めて、今後とも鉄道の安全輸送についてはJRにも報道機関にも期待はできない、つくづく思わされた今回の惨事でした。

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