「都心の公務員宿舎叩き」報道の受益者

 しばらく前に、「都心の官舎に安い家賃で住む公務員」がマスコミで叩かれた事がありました。ご丁寧に具体的な所在地から家賃の詳細まで調べ上げて、あたかもそれが悪事であるかのように新聞・週刊誌は批判していました。
 その流れにあわせて行われた、財務省の「国家公務員宿舎の移転・跡地利用に関する有識者会議」なるものが、「答申」を発表しました。その内容は、都心を中心とした公務員宿舎二百十八カ所を売却する、というものでした。
 国有財産を処分するわけですから、本来なら我々国民に何らかの利益がもたらされるはずです。ところが、その売却による収入は3,740億円とのこと。確かに個人レベルでは少なくない額です。しかし、その記事によると現在の国債残高は600兆円ですから、そんな売却収入があっても国家財政にはほとんど寄与しません。600万円の借金に苦しんでいる人に3,470円援助するのと同じ理屈です。したがって、答申通りに公務員宿舎を売ったところで、我々の支払う税金が減ったりすることはありません。
 しかしながら、この売却に期待している人もいます。それは、跡地開発を見込む不動産業者です。確かに都心をはじめとする優良物件が手に入るわけです。それについて、上記の記事は問題は(中略)入札により用地取得コストが膨らむ事を懸念する見方も多い。また、公共用地の払い下げには高さや景観などに制約条項が付くことも多いと心配しています。

 用地取得コストが膨らめば、借金全体の比率からすればわずかとはいえ、国庫の収入が増えるわけです。また、高さや景観などに制約がつけば、東京の景観が悪くならないわけで、これまた国民の利益になるはずです。ところが、この記事はリードで財政再建への効果は限られるが、土地の利用の仕方を民間が競うコンペ方式の導入も検討しており、経済の活性化につながることが期待できる。などと書いているように、この「コスト増」や「制約」を「経済の活性化」のマイナス要因として批判しているわけです。現在の「大企業の収益だけ史上最高」という「景気回復」を見ても分かるように、そのような「経済の活性化」をしたところで、国民が得るものはほとんどありません。
 この事から分かるように、「都心の公務員宿舎売却」というのは、国の財産を切り売りして不動産屋を儲けさせるだけの話なのです。一方、大手不動産屋の経営者を除いた一般国民にとってはどうなのでしょうか。都心の宿舎に住んでいる公務員は郊外に移住させられるわけですが、官庁は一緒に郊外に移りません。その結果として生じるのは、通勤ラッシュのさらなる激化だけです。その一方で国民の共有財産である国有地が安く売り払われ、都内の景観はより一層悪くなるわけです。
 最初「一等地に安価で住む公務員叩き」キャンペーンが起きた時は、単に私企業に勤めている国民の不満の矛先を本質と異なる方向に向けるためだけのものだと私も思っていました。しかし、実際はそれだけでなく、国有財産を不動産業者が美味しくいただくための地ならしでもあったわけです。
 「公務員たたき報道」を真に受けて「公務員が都心の官舎に住むのはおかしい、追い出すのは当然」などと喜んでいる人も出るでしょう。しかし、そういう人は気づかない間に国民の共有財産をたたき売られて損をするわけです。端から見ると、ギャグみたいな構図ですが、国民であるだけで自動的に自分も被害者になってしまうため、笑うことはできませんでした。