裸の「王道」

 先週の日経新聞一面に、企業の活性化を通じて雇用や賃金を確実に生み出し、家計の不安を和らげるという「王道」を歩む必要があるという一文がありました。
 現実として「一部大企業だけが業績と資産を増やし、働く人は貧しくなる」という状況が続いているわけです。にも関わらず、財界やマスコミは、このような非現実的な事を繰り返し宣伝し続けています。

 この言葉を見たときは、ある有名な「王の道」を連想させられました。それは、明らかな嘘と分かっていながら、引込みがつかなくなって裸で街を歩いた王様が歩いた道、および、沿道でその「服装」を称えた臣民たちの寓話でした。
 現在の大企業は正社員の労働条件低下や、低賃金の非正規雇用者の利用といった人件費削減により、利益を挙げています。そして、そこで得た利益を従業員に還元させることはほとんどありません。これは、目の前の「王様」が裸であるのと同じくらい明白な現実です。
 ちなみに、この「王道」の文章が載った日は、ちょうど私企業で働く人の年額が過去最大の下げ幅になったという発表がなされた翌日で、その減少ぶりを表すグラフが、日経新聞にも載っています。
 そのグラフを載せながら、このような主張をするのですから、「裸の王様」を地で行っているとしか言いようがありません。

 なお、今回の「王道」のように、新聞をはじめとするメディアは、実情と乖離している主張をする時、単なる自社の主張が、あたかも世の中の摂理であるかのように断言する表現をよく使います。
 たとえば、「福祉を維持するためには、サービスを低下させるか、消費税率を上げるかの選択肢しかない」とか「イラク戦争でアメリカに協力しないと、日本は国際社会の笑いものになる」などが典型的な例でしょう。
 意味としては、今回の「王道」は、語句を変えただけです。とはいえ、このような言葉を使ってくれたおかげで、「新聞社の権威」をかさに、そのような事実でない事を断定的に書くこのような報道は、「この服は愚かな者には見えないのです」という現実的にありえない事を、堂々と主張することによって信じこませた「仕立屋」と同じ手法だという事に気づくことができました。
 それを知ることができた、という点においては、上記の記事は有意義だった、と思いました。