過重労働と「正社員過剰」

 メディスコーポレーションという介護付き老人ホームを経営している会社があるそうです。この会社に勤めていた40代の経理部長が最高で時間外労働月228時間もの過重労働を強いられた挙句、過労うつで自殺しました。
 それに対して、遺族が損害賠償を求めて裁判を起こし、一審で支払いを命じる判決が出ました。そこにおける会社側の主張は普段の行動からもうつ病を発症していたとは考えられず、自殺は予見できなかったというものでした。
 228時間も時間外労働をさせておいて、異常を感じることがなかった、と主張できる会社側の主張には呆れるよりありません。

 このような事件は何度も発生しています。しばらく前にも、康正産業という会社が経営する鹿児島の飲食店で、月平均200時間の残業をさせられた30代の店長が意識不明になり、いまだに治っていない事件での判決がありました。
 要は、会社が利益のために社員をこき使って殺したり植物人間にしたわけです。ところが、この類の事件に関する報道は、常に裁判の判決などを報じるだけです。これを元に新聞社が得意としている(?)「調査報道」を行い、過重労働の実態を暴く、などという事はありません。

 また先日、厚生労働省が日本の有休取得率を発表しました。その結果は、47.1%で、前年より低下していたとのことでした。
 ところが、それに対し、朝日と日経は相次いで、「日本の祝日の多さも取得率の低さの一因となっている」という説を発表しました。これが事実なら、祝日の有無に関わらず月の所定勤務日数が変わらないサービス業は有休取得率が高くなるはずです。
 ところが現実は正反対です。その厚労省発表では、「生活関連サービス業・娯楽業」は42.0%(中略)で11番目(中略)「宿泊業・飲食サービス業」は31.4%と、全業種のなかで最も低かった。となっていました。
 その程度のデータも確認せずに、このような現実離れした珍説を堂々と発表しているわけです。

 その一方で、商業マスコミは「正社員が過剰である」などという財界の主張をそのまま報じます。特に、中高年の正社員の存在が、若年層の就職を阻害しているなどと、若年層と高齢層を対立させる分断支配の宣伝材料にしたりします。
 本当に中高年の正社員が過剰だったら、このように、一人で二人分以上の時間を働かざるをえない30~40代の正社員など存在するわけがありません。
 さらに、人が余るほどならば、有休取得率は100%になるでしょう。そうでないからこそ、皆、休める権利を行使できず、タダ働きせざるをえない状況になっているのです。
 このように、ちょっとした事例を数件調べるだけでも「正社員が余っている」などというのは現実からかけ離れた絵空事という事が分かります。にも関わらず、その程度の分析もせず、商業マスコミは、財界の主張をそのまま垂れ流しているのです。
 いかに働いている人が最低限の権利すら行使できない環境にあるか、という事および、財界と商業マスコミがその現実と正反対の事を宣伝しているという事が、あらためて良く分かる、一連の労働問題および報道でした。