公務員給与の「削減効果」

 今に始まった事ではありませんが、「公務員の給与を削減せよ」という主張をする人は、商業マスコミに好意的に取り上げられます。そして、私企業に勤務している人には、それに賛同する人が少なからず存在します。
 これは、私企業で働く人の賃金や労働条件の低下に対する不満を、経営者に向けさせないための分断支配が成功している事の好例と言えます。
 では、果たしてそのような扇動者の主張通り、公務員の給与が削減されると、私企業で働く人などに何かいい事はあるのでしょうか。
 一番最初に想定されるのが、公務員給与削減により、国や自治体の財政が良くなって住民サービスが向上する、という考えです。実際、話題になっていた阿久根市の選挙で、前市長はそれを「実績」としていました。
 しかしながら、実際に行われたものとして挙がっていたのは、「住民票の発行手数料が100円安くなった」とか「市役所に住民が閲覧可能のインターネット端末が設置された」といった程度のものだけでした。 
 同じく「公務員叩き発言」で商業マスコミに持てはやされている大阪府知事なども、公務員給与削減とともに住民サービスも削減しています。

 というわけで、公務員給与が減ったところで、私企業で働く人に対する経済的利益などほとんどありませんし、仮にあっても僅かなものです。では、心理的な点ではどうなのでしょうか。
 仮に、公務員の給与が下がった事が大々的に報道されれば、「公務員の給与が高すぎる」と不快感をおぼえている人は気分がよくなるのでしょう。しかし、実際には公務員の給与は下がり続けているにも関わらず、そのような事が派手に報道される事はありません。
 何しろ、公務員給与削減を煽るのは、私企業で働く人の不満を公務員に向けさせるためです。そのため、「実際に公務員も給与が下がっている」という認識をされては困るわけです。したがって、先述した首長たちも「下げはしたが、まだまだ下げるべきだ」という形の主張をし、マスコミもそれを報じます。
 その結果、公務員給与の削減を願っている人たちの溜飲が下がることはありません。いくら公務員の給与が下がっても、「まだまだたくさん貰っている。けしからん」とフラストレーションが溜まり続けるのです。

 というわけで公務員の給与が下がったところで、公務員給与を敵視している人は、物心両面とも満たされることはありません。その一方、公務員給与の削減は、二つの意味で私企業で働く人の給与に悪影響を及ぼします。
 まず一つは、給与が下がればその分、世の中にお金が回らなくなる、という事が挙げられます。私企業で働く人と同様に、公務員も給与が減らされたら、その分、消費を控えます。
 そうなれば、当然ながらあらゆる業種において売り上げは下がります。そして、今の時代は、「とにかく人件費を削減して利益を維持」という企業が多いので、売り上げ減は、そのままその会社で働く人の給与に影響を及ぼします。
 それに加え、現在の賃下げ圧力の一つに「平均と比べて高ければ賃下げ」という基準があります。したがって、公務員の給与が下がり、社会全体の平均賃金が下がることは、私企業の賃下げの口実につながるわけです。

 このように、公務員の給与が下がることは、私企業で働く人にとって、経済的にも精神的にも利点はない上に、さらなる賃下げという不利益の原因にしかなりません。
 逆の立場で言えば、財界などにとっては、公務員の給与削減を煽る事により、自分たちへの不満を見当違いの方向に逸らせる上に、賃下げによって収益を上げる事ができるわけです。
 このようなシステムが保たれている間は、財界およびその意を受けた政治業者や商業マスコミが「公務員給与叩き」を辞めることはないでしょう。そして同様に、私企業で働く人も公務員も別け隔てなく生活が苦しくなり続ける、という事態が改善されることもないでしょう。