政権公約の解釈方法

 選挙のしばらく前に、政府税調が「定率減税全廃、配偶者控除、扶養控除の廃止」などを盛り込んだ、「サラリーマン増税」と呼ばれるものを発表しました。それに対し、自民党は選挙公約で引き続き聖域なき歳出改革に果断に取り組みながら、国民の合意を得つつ、新しい時代にふさわしい税体系を構築する。その中で所得税については、所得が捕捉しやすい「サラリーマン増税」を行うとの政府税調の考え方はとらない。と公約しました。
 ところが、選挙が終わるとすぐに、その政府税調にあった「定率減税の撤廃」に向けて動き出しました。それに対し、「公約違反だ」と問われると、小泉首相はゆっくりとマニフェストを朗読した後、「サラリーマンだけを対象とした増税は行わない、ということだ」とかわしたそうです。
 もしかすると、「サラリーマンだけに増税するわけではなく、自営業者や公務員にも増税するから『サラリーマン増税』ではない」という論法なのでしょう。しかし、実際にサラリーマンは増税をされるわけです。
 だいたい、上に引用した政権公約を読んで、「これは、サラリーマンに対する増税はするが、他の職業の人にも増税するから『サラリーマン増税』という考え方はとらない」と解釈するのは、一般的には難しいのではないでしょうか。少なくとも、あの政権公約を見て、「自民党が選挙後にサラリーマンの税率を上げるつもりだ」と考えたのは、「自民党の政権公約など、しょせんは「このくらいの約束を守らなかったというのは大したことではない」という程度のものだ、と認識している私のような人を除けばいなかったのではないでしょうか。

 これでまだ、政権公約の全てを反故にしてくれるのなら、まだ救いがあります。しかし、「改憲して戦争を起こせるようにする」だの、「教育基本法を変え、戦前のような教育にする」など、国民にとって害になるものは、約束通りに履行する雰囲気なのですから、より一層困ります。

 なお、本記事の例に代表されるように、国民にとって不利益になるような政治を行いつづけている自民党がなぜ先の選挙で大勝したかの原因についての一考察「民」の最新手法を導入した選挙宣伝を、長文集に掲載しました。あわせてお読みいただけると幸いです。

議席数よりもむしろ

 選挙の結果、民主党が64議席、「諸派・無所属」が14議席減って、自民党と公明党で差し引き81議席増えました。つまり、自民・公明・民主の合計の議席数はさほど変わっていないわけです。選挙の直前に書いたように、自民党と民主党の本質は変わらないと考えていますので、そういう点では「自民党大勝」という情報にはさほど驚いていません。正確に言えば、共産・社民が激減した前回ほど驚いていない、という感じです。
 とはいえ、今後の日本に対する不安感はより一層高まりました。特に気になったのは、今回の選挙では、これまで以上に商業マスコミと自民党の一体化が目立った事です。ここまで協力体制が整ったのは、60年ぶりではないのか、とまで思っています。今回は、その「成果」が「民主党の議席が自民党に移動」という程度の結果にしかなりませんでした。しかし、この手法を応用すれば、憲法をはじめ、重要な諸問題が今回の選挙と同様な形で進んでしまう危険性が大きいでしょう。そのあたりについては、明日以降また書いていきます。

政権選択?

 大手マスコミを筆頭に、色々な所で、今回の選挙を「政権選択」と定義づけしている論調を見かけます。確かに、「誰が政治を行うか」という事のみを考えれば、そうなるのかもしれません。しかし、「どのような政治を行うか」という事を考えると、果たして今回の選挙の意義は「政権選択」になるのでしょうか。
 「どのような政治を」という点から考えると、現在の与党である二つの政党と、最大野党は似通いすぎています。経済政策にしろ、「安全保障」にしろ、本質的な違いを感じるのは難しいでしょう。だいたい、「自民党の公認が取れなかったから民主党で出た」などという候補者すら存在するのですから、本質的な違いなど出しようがありません。

 10年ちょっと前に、「佐川マネー」などで自民党政治に対する批判が高まった時に、「非自民連立政権」が誕生しました。しかし、その結果としてもたらされたものは、「企業献金を維持しながら、税金からも政党に金がつぎ込まれる」という「政治資金改正」と、自民党のような利益誘導型の大政党に最も有利となる「小選挙区を軸とした選挙制度」でした。そしてその結果、議席数の多寡にかかわらず、「9条改憲」を始め、自民党の目指しているものが、着実かつ急速に進むようになっています。
 このような過去を見る限り、「政権選択」というのは見かけほど重要ではないように思えます
 「誰が政治を行うか」だけ考えれば、「勝った負けた」は自民党(+公明党)と民主党の議席数のどちらが多いか、だけを考えればいいのでしょう。しかし、「どのような政治が行われるか」を考えると、重要なのはむしろ「全議席数に対する、自民党的政治を行う議員の比率」になるのでは、と思っています。